ありがたいことに、再就職が決まった。障がい者枠の契約スタッフとして、とあるオフィスで春から働き始める。

就職、退職、再就職。成し得たのは、たくさんの人が支えてくれたから

障がいをクローズにして入社した会社を夏に退職し、半年間の就職活動を経て、何とか条件に合った職場から採用通知をもらうことが出来た。支えてくださった全ての方に感謝したい。

この数年間でわかったことは、仕事探しから退職、そして再就職に至るまで、一人でできることはあまりないということだ。
新卒採用の際は大学のキャリアセンターに通い詰めた。入社後は様々な研修に参加できるように、先輩がシフトをやりくりして下さった。辞める際は両親が相談に乗ってくれた。求職中は福祉の世話になった。
どれを欠いてもこの原稿が目に触れる状況には到達できなかったのである。

就職活動の日には、始発で喫茶店へ。オーナーとも仲良くなった

再就職活動中、私に一番大きな影響を与えたのは、行きつけの喫茶店とオーナーの存在だった。
駅の近くにある老舗の店で、試験前に必ずコーヒーとトースト、卵を食べに始発で寄る。濃いめだが刺さるような渋みはなく、飲みやすいブレンド。目が覚める上に胃もたれもしづらいので、長距離の移動前にも最適な朝ごはんだった。
オーナーは混雑する週末を中心に店に立っていた。見る人によっては横柄に見えるかもしれないが、本人も二代目か三代目らしく、それなりに葛藤があったことが伺えた。顔見知りになると、敬語を外してくれるようになった。

「今日はスーツだけど、どこか行くの?」
「飛行機乗るもんで、バス待ち。やっと書類と筆記が通ったんです」
「やったじゃないの」

働くうえで私にとって本当に必要なことを、オーナーは見抜いていた

オーナーはある日、言った。
「働くうえで大事なのはね。自己実現ですよ」
「どういうことです?」
「どういう自分になりたいかってこと。それがはっきりしてないと、どの会社に入っても上手くいかないよ」
どのカウンセリングでもわからなかった私の弱点を、この人は見抜いていた。
どんな働き方をしたいか、どんな仕事内容ならついていけるのか。具体的な条件に囚われすぎた状態では、どんな結果になっても受け入れられないということを気づかされたのである。新卒の時から続く腑に落ちない感覚は、最終的にどうなりたいかを素直に考えられていなかったことが原因だった。

物書きになるために新天地へ。また素敵な喫茶店と出逢えますように

物書きとしてのライフワークの確立。最終的に私が望んでいるのはそれであるという結論に落ち着いた。そのためには最低三年は、実社会でキャリアを積むべきだ。正規スタッフにこだわらずに探すことにした。
いくつか探した中でご縁があったのが、今度のオフィスである。少々遠方にあるため、三月には引っ越さなければならない。今までのように気軽にコーヒータイムはできない距離だ。まだオーナー一家には、最後の来店日は伝えていない。

思えば大学に復学した時も、最寄り駅の側に家族経営の喫茶店があった。そこのコーヒーも濃いめで渋みが少ない。空きコマに気持ちを切り替えるべく、よく通った。
六年で何とか卒業できたことを報告したときは、我がことのように喜んでもらった。コロナウイルスの流行地にあり、苦労しているのではないかと心配している。お父さんの腰が良くなったかも気になるところだ。

仕事のことで悩んだときは、お気に入りの店に行くこと。お気に入りのメニューを頂きながら第三者の視点でアドバイスをもらうこと。それが仕事と程よい距離間で、関係を維持していくために私に必要なのではないかと思う。
新天地に、行きつけにできる喫茶店はあるだろうか。目下の心配事はそれである。