転職選ばずストライキ決行した若手社員の胸の内「この仕事を続けたいから、ここで踏ん張りたい」
今年の3月上旬、徳島新聞労組が29年ぶりに、持ち場を離れるストライキを約2時間決行。編集部門を分社化し、新入社員の給料を65%とすることに抗議をしました。最初に声をあげたのは、入社5年目以下の新人記者たち。新卒の約3割が3年以内に会社をやめる時代。「愛社精神」という言葉も死語となるなか、なぜそこまでして会社を変えようとするのか。発起人のひとりである徳島新聞記者の藤川紫音さん(27)に話をききました。
今年の3月上旬、徳島新聞労組が29年ぶりに、持ち場を離れるストライキを約2時間決行。編集部門を分社化し、新入社員の給料を65%とすることに抗議をしました。最初に声をあげたのは、入社5年目以下の新人記者たち。新卒の約3割が3年以内に会社をやめる時代。「愛社精神」という言葉も死語となるなか、なぜそこまでして会社を変えようとするのか。発起人のひとりである徳島新聞記者の藤川紫音さん(27)に話をききました。
――「新卒社員の3割は3年以内にやめる」というデータがあるほど、Z世代にとって転職のハードルは低くなっています。会社に不満があるなら転職する、というのが主流なのかなと思うのですが、なぜ「辞める」ではなく「変える」ことを選んだのでしょうか。
徳島で記者の仕事をしたい。それができるのが今の会社だけだからです。
私は徳島市出身で、大学で大阪に出ました。デンマークに1年間留学していたこともあります。徳島を離れて、自分のアイデンティティが徳島で築かれたものだと実感したんです。恩返しじゃないですけど、若い世代の子たちにとっても、徳島が良い環境であるために何ができるかを考えたら新聞社での仕事が魅力的だった。地域に根ざして、地域のためになる記事を書く、そうしたことをずっとしていきたいと思っています。
――転職することは全く考えていない?
他の仕事を知らないのもあるのですが、新聞記者以外にしたい仕事も今のところないんです。それくらい、今の仕事が好き。ただ会社のことは嫌だと思ってしまう……。
何より、何も言わずに去ってしまうことが後輩や徳島のためにも良いとは思えない。まだできることはあるのかなって思っています。
――入社してから、どんなお仕事をしてきたのか教えてください。
1年目は警察担当でした。本社のベテランに記者のいろはを教えてもらいました。2年目からは、今の美馬支局。県西部の人口2.6万人の美馬市の担当をベテラン支局長と一緒に1年間経験しました。ちょっとおかしいなと思い始めたのは3年目に、20代の同期が支局長になったことでした。経験の浅い2人でやっていけるのかなととても不安でした。でも、さらに状況が悪化したのは4年目、私が支局長になって2年目の後輩と担当することになったんです。
――支局長といえば実質、管理職のようなものだと思います。かなり大抜擢ですね。
いえ、私としては人員不足が理由だと考えています。本来支局長をやる30代がどんどんやめていってしまっていることが原因だと思われます。年齢の近い支局員同士の横のつながりはあるけど、支局は20代ばかりなのは不安です。
――それでも、地元紙の拠点があることは市民にとって重要です。
そうなんです。「私が書かなかったら、誰も書かない。なかったことになる」という緊張感はいつも持っています。だからこそ、若手ばかりの人員配置でいいの?ととても不安。
私は、田舎って最先端だと思っているんです。人口減少、高齢化、空き家問題。これらは未来の徳島市、日本、世界の課題がここにあると思っています。そうした課題意識に根付いたやりがいもあるので、支局で記者をすること自体は最高に楽しいんですけどね。
――同世代の方の受け止め方はどうですか?
大学時代の友達の中には、ニュースなどを見て心配して連絡をしてくれる人もいました。「新人記者の給料を65%にする」という報道に対して「(この売り手市場だったら)そんなん人こんのちゃう?」と冷静な意見をくれました。私に対しても「辞めないの?」って。でも、私が仕事にやりがいを感じているのは、友人も知っているのでそれ以上強くは言われることはなかったですが。
――会社を辞めることは全く考えない?
「絶対辞めないぞ!」と思っているわけではないです。新卒で徳島新聞の記者になったけど、会社なんて星の数ほどあるから、一発で「生涯働き続ける会社」に当たるはずがないとも思っています。
就職先が決まった時に「仕事は何をしても一緒。どんな仕事にもしんどいことはある」と、先輩に言われたことがとても印象に残っていて。何をしてもしんどいんだったら、私はこの仕事を続けたいから、ここで踏ん張りたいなと思ったんです。
いつか会社を辞めることもあると思うけど、今みたいに「会社が嫌!」というネガティブな理由じゃなくて、他にやりたいことが見つかったなどのポジティブな理由で辞めたいなと思います。「お世話になりました」と笑顔で会社を去りたいです。
大企業の若手有志が参加する団体「ONE JAPAN」が著した本のなかで、
“今いる会社がつまらないと考えた人がとる道は3つあります。「辞める」か「染まる」か「変える」かです。” という言葉があった。
終身雇用の時代だったら「染まる」を選ぶ人が多かっただろうが、「辞める」がキャリアアップともなる今、「変える」が一番コスパが悪いとも言える。だからこそ、若い世代が最もコスパの悪い「変える」を選び、デモ活動の先頭で声をあげていることに驚いた。
しかしよく考えると、藤川さんが就職活動をしていた2019年は、アメリカでのMeToo運動が波及し、日本ではKuTooが新語・流行語大賞に選ばれた年だ。この世代にとって、社会課題は目をつむって考えることを「やめる」ものでも、なかったかのように「染まる」ものでもなく「変える」ものだという意識があるのかもしれない。
私が「変える」をコスパが悪い、と思ったのは、「変えられるわけない」とどこかで思っているからだろう。1人の声から「変えられる」可能性を感じている彼女たちにとっては、その可能性を試しもせずに、せっかく出会えた大好きな仕事を「辞める」、あるいは嫌いになってまでも「染まる」ことこそもったいない。言葉を換えるとコスパが悪い。
今回の取材を通じて「変える」を選べる若い世代が育っていることにとても可能性を感じた。「変えられる」と期待してくれている彼女たちの声を、少しでも反映できる先輩でありたいと思った。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。