話題のドラマ、インティマシー・コーディネーター当事者はどう見た?

――初めて取材したのは4年前。当時は、濡れ場やセックスシーンの仲介役を担う「インティマシー・コーディネーター(IC)」という言葉もあまり知られていませんでした。あれから、インティマシー・コーディネーターは流行語大賞も受賞して、認知は広がりました。最近ですと、ゴールデンの地上波ドラマにもICが登場していました。

まず、ICに注目をして、その存在の認知を広めてくれたことには感謝をしています。

その上で……お仕事ドラマってそうなのかもしれないんですが、正確に描かれていたかというと違うと言わざるを得ない。私も『スチュワーデス物語』(1983年放送)が子どもの頃大好きで見ていたのですが、ドラマ内で主人公が「私はドジでのろまな亀です」と言うシーンがあるのですが、あれもCAさんたちから見たら「そんなドジで失敗ばかりの人を飛行機に乗せられるわけないだろ」って感じだったのかもなとも思います。

ひとつひとつ注釈いれたくなくなるくらい間違ったICのイメージが広まったなあと思います。まだ、メジャーな職業ではないので、インティマシーコーディネーターやインティマシー○○というような言葉を使うなら、段階を踏みましょうよと言いたい。やり方が雑なんですよね。

ICの仕事は撮影前にはほとんど終わっている

そもそも、ドラマ内でいうところの「首からくるぶしまでNG(役者側)」「どうやって隠そうか?(制作側)」といった話は事前に会議室でしておくものなんです。「ハイネック着せようか?」という提案もありましたけど、いやいや急に言われても衣装さん困るでしょっていう。

ICの仕事は撮影前にはほとんど終わっています。台本を読んで、監督とプロデューサーにシーン描写をヒアリングし、それを役者とマネージャーにシェアする。最近は事務所側もICの仕事を知っているので「役者と直接話してください」ということもあります。

――ドラマによって、ICを初めて知ったという方も多かったと思いますが、間違った印象が広がってしまったら残念です。

あの枠のドラマなのだから、ICと連絡をとろうと思えば簡単にとれたと思います。でも、そうしなかったのはあえてだろうなと思いました。リアルに描かず、揶揄するために登場させたのかなと感じました。

「ICが入ってるんだから、この作品は安全に撮影されている」は間違い

――日本だと、ドラマの公式SNSがドラマ内の動画とともに「パンティーを脱がされる●●(俳優の名前)」とテロップを付けているのを見ました。「役者もリスクに感じるのではないか」ということを、日本では公式が率先してやっているのではないでしょうか。

ここ最近感じるのは、配信などで視聴者数を増やす為に、全体的に過激になってきているような気もします。それによって私も仕事が増えるので物申す立場ではないのですが、数字がよければ倫理的、社会通念上よくなくても、結果的に視聴数が多い、バズっている=「作品としてすごく良い!」「すばらしい話題作!」と評価されてしまうことが問題だなと私は思います。

同じように「ICいれたからこの作品は評価できる!」となってしまうのも怖いです。私は、自分が関わっているシーンについてはできる限りの責任を持って携わろうと思うけれど、それ以外のこと……例えば労働環境や撮影中のスタッフの精神面とかはわからない。実は何十時間も働いていました!なんてこともあるかもしれない。「ICがいるから安全に撮られてます!」と免罪符がわりにされるのは違うなと思います。

――そうした思いもあって、今回、著書のタイトルを「正義の味方ではないけれど」としたのでしょうか?

この仕事がうまれた背景に#MeTooがあったこともあり、「正義の味方!」「役者の味方!」と思われることが多いです。でも、実際は「インティマシーシーン」を安全に撮影するための調整役に過ぎず「正義の味方」ではありません。

クリーンなイメージばかりが先行してしまっていると、「目指してるのと違った」となってしまうかもしれません。内実はパワーバランスの一つでしかなくて、監督が聞く気がなければ意味ないですしね。

ICの仕事も、嫌だな辞めたいなと思う日もある

――この本はどんな人に読んでもらいたいでしょうか?

この本では私がICになるまでの半生も書いているのですが、目標もなく、行き当たりばったりなんですよ。海外で仕事をしてから、日本に戻ってくると「評価されて、キラキラして、楽しんでいないといけない!好きな仕事をしてなきゃいけない!」みたいな圧を感じるんです。でも、私に言わせれば好きな仕事なんてそもそもあるわけないじゃんっていう。ICの仕事も、嫌だな辞めたいなと思う日もある。でも、もっと怖いのは辞めたいと思わなくなること。自分が何をやりたいか不感症になることが怖いです。辞めたいな、次は何をやろうかなって思ってるくらいがちょうど良い、リスクヘッジが出来てるなって思います。読んだ人に「こんなお仕事観もあるんだよ~」と思ってもらえるとうれしいです。

●西山ももこさんプロフィール

高校から大学卒業まで6年間、アイルランドで学生生活を送る。その後 はチェコ のプラハ芸術アカデミーに留学し、(教育学部ダンス科で7年を過ごし、)2009年からは日本でアフリカ専門のコーディネート会社にて経験を積み、2016年 よりフリーランスに転向。
月1~2回のペースでアフリカ、欧米、アジアでの海外ロケだけでなく、国内でのロケ、また国内外のイベント制作に携わる。

3/28発売!著書『インティマシー・コーディネーター--正義の味方じゃないけれど』

西山ももこ/論創社(1,980円)

『インティマシー・コーディネーター--正義の味方じゃないけれど』

俳優がより演じやすく。監督がより演出しやすく。 日本では数人しか従事していないインティマシー・コーディネーター。出演する側と制作する側のあいだに入り、おもに映画やドラマの性的シーンの内容について調整する。その仕事の詳細とは。そして、どんな人がいかなる思いで取り組んでいるのか。