私は、「可愛い」という言葉が大嫌いだった。いつもその言葉を向けられるのは自分ではなく周りにいる友人だけ。それが繰り返される度に、自尊心は醜く歪み、相手に対する憎悪も少しずつ濃くなっていった。
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私には高校生の頃、入学し出会ってからそれ以降の3年間をほとんど一緒に過ごした友人がいた。彼女とは性格やテンションが似ていたため一緒にいて気が楽であったし、趣味やお互いの好きなジャンルが共鳴する事も多く、彼女と話している時の話題は尽きる事がなかったように思う。しかし、それと同時に私たちは外見も「似ていた」のである。
両者とも髪型は黒髪のショート、そしてメガネをかけており、パッと見た時の雰囲気、外見はよく似通っていた。そして彼女と私はお互いにあまり目立たない性格であり内弁慶、それ故に2人で行動を共にする事が多かったのだが、それも相まってか時々他の同級生から互いを呼び間違えられる事があったのだ。
それだけならまだいい。しかし、私達はパッと見の外見と雰囲気は似ていたものの、細かく見た時のパーツはかなり異なっていた。
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彼女は見た目は地味であるが、よく見るとパッチリとした二重が目を惹き、目を伏せた時に上下するまつ毛はバサバサと長く、かつぷっくりとした涙袋を携えており、ニコッと微笑んだ時にはまるで可憐な花が綻ぶかの様ないじらしさがあったのだ。
それに加え髪の毛もサラサラとしていて癖がなく、おまけに体型も全体的にほっそりとしていて華奢。それだけ揃っていれば自ずとそうなるのも無理はない、彼女は普段はあまり目立たなかったものの、一部の層からはひっそりと人気を博していた。
それに引き換え私はパーツ別に見ると彼女との外見の差は一目瞭然であり、腫れぼったい一重に少し上を向いた団子っ鼻、髪の毛も剛毛でクセがあり常にスっと整っている彼女と比べるといつもどこかしらはねていた。
顔のパーツが貧相であるから余計に丸顔が目立っていたし、スカートから見える足もスラッと伸びる彼女のそれと比べ恥ずかしくなるくらいパンパンの大根足であったのだ。
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そう、私たちは大まかな雰囲気は似ていても、その細部には驚く程に差があった。彼女は周りの子達から「可愛い」と言われる事が多かったが、その傍らにいる私にその様な甘美な言葉が囁かれる事はまずなかった。
「あの2人って似てるけどさ、よく見ると全然違うよね笑」
その言葉が教室で鼓膜を掠めた時、自分の背中にじわじわと冷や汗の様なものが伝ったのをよく覚えている。
やっぱり、みんなそう思ってるんだ。どうしてあの子は可愛いのに、私はそうではないんだろう。どうして、こんなにも違うんだろう。ドクドクと脈打つ心臓と共に、当時の私は彼女に対する劣等感を少しづつ拗らせていったように思う。
普段関わりのないクラスの上位カーストに位置する女子がもてはやされる様な事であれば、私は全く気にしなかっただろう。しかし、いつも行動を共にする友人が一部から影のアイドル的な扱いをされていた事に嫌でも嫉妬心を抱いてしまったし、彼女はその気になれば私から離れて新しい友人の輪を作る事だってできる。それ故に、いつか私は一人になってしまうかもしれない……その様な恐怖心を抱く事も多かった。
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最初のうちは呼び間違えられてもああ、それだけ私たちが仲が良いから間違えてしまうんだな、と肯定的に捉えていたが、それは次第に苦痛にしかならなくなった。間違えられる度に、ああ、みんな心の中ではこんなにも差がある私たちの容姿を笑っているんだ、そうに違いない。最早そうとしか思えなくなっていた。
大学に進学してからは、お互いの環境が大きく変わった事もあってか彼女と会う頻度は少しずつ減っていき、現在はお互いの状況すらよく把握できない状態だ。
しかし、今の自分であれば彼女と対等に向き合う事ができるのではないか、と思う。
在学中、私は彼女と自分の悪い所ばかりを比べ他者からの視線に怯える日々を送っていたが、大学に進学しこれまでとは違う環境、友人に出会い少しずつ化粧も覚えていった事により、自分の内面、そして見た目にも自信を持つ事ができるようになっていったと思う。
まだ完全ではないにせよ、当時と比べればいくらか私は自分の事を好きになれた気がするのだ。
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距離が近い相手だからこそ、醜い歪んだ感情を抱いてしまう事がある。しかし、時間が経つにつれそのわだかまりは解れていき、たとえ少しずつでも自分に自信を付けていく事は可能であるのだ。
彼女は今、何をしているのだろう。今度久しぶりに食事にでも誘ってみたいと思う。