忘れられないあの子。今は疎遠になってしまった中学校時代の友人を思い出す。その頃、彼女とは「親友」と言えるくらい仲が良かった。彼女といる時は間違いなく楽しかった。でも、苦しかった。

◎          ◎

彼女は顔がとびきり可愛くて、スタイルも良くて、オシャレで、運動もこなせて、頭も良く、性格はちょっと悪い。学年の中心的人物で、誰もが一目をく存在だった。まさにスクールカーストのトップ。対して私は、オタクで、あまり人と仲良くなるのが得意ではなく、オシャレなんかに興味がない三軍だった。そんな彼女と私が仲良くなったのは、部活と塾が一緒だったことがきっかけだ。私が部長で彼女が副部長。

彼女はまさに私の上位互換だった。私はいつも周りから嫌われるのが怖くて、部長という立場だったけど、たとえ周りが良くない行動をしていても咎めることができなかった。彼女はしっかり自分の意見を持っていて、自分の意見を言うことにためらいがなかった。しっかり注意するべき時は注意し、褒める時は褒めていた。そんな彼女のことを素直に尊敬していたけど、同時に自分の八方美人さが嫌になった。先生から指名されて部長になったけど、周りからは逆の方が良いと言われていた。私は部長に相応しい人物になろうと努力していたけど、ついぞなれなかった。

◎          ◎

彼女は、私の劣等感を刺激する存在だった。自分人でいる時は自分のままで良いと思えるのに、彼女といると急に自分がダメな存在に思えた。彼女はとても眩しくて、そんな彼女のことが羨ましくて、妬んでいた。友人に対して醜い感情を抱いてしまう自分も嫌だった。

周りの人が、私と彼女とで態度を変えるのが嫌だった。私は塾で友達が作れず孤立していて、よく他の女子グループの子達に聞こえるように陰口を言われていた。服がダサいとか、どうでも良いこと。その子達は私の名前こそ出さないけど、絶対に私のことを話していて、私にに聞こえるように陰口を言いながら楽しそうに笑っていた。心が氷水をかけられたように冷たくなった。陰口を言われていることに気づいているのに、気づかないフリをしていた。教科書を読んでいるフリをしていたけど、内容なんて全く頭に入ってこなくて、早く時が過ぎろと願っていた。やめてって言う勇気もなく、その子達の仲間に入れてもらえるように話しかけることもできず、他の友達も作ることができない。自分が惨めだった。塾に行くのが辛くて辛くてしょうがなかった。

◎          ◎

ところが彼女が新しく塾に入ってきた瞬間、状況が一変した。学校でスクールカーストトップの存在である彼女が、私の友達であることで、周りの子が私を仲間に入れてくれるようになったのだ。彼女の存在のおかげで、塾のクラス全体もまとまり仲良くなった。それ以来、塾に通うのが楽しくなった。でも同時に、彼女の存在の大きさと、自分の小ささを思い知らされた。いくら考えないようにしようとその差は大きくて、無視することはできなかった。どんなに楽しい時でも、頭の中に常に私たちを客観視する私がいて、彼女と比べてお前は劣っていると囁き続けてきた。

彼女と私は気が合って、アニメのこと、好きな音楽のこと、どうでもいい話、何を話しても本当に楽しくて、笑いが絶えなかった。塾の帰り道、夜の歩道橋の上で家庭の悩みを打ち明けてくれた時は嬉しかった。私も家庭環境が良くなかったので、彼女と悩みを共有できて嬉しかった。あんなに眩しい存在でも私と同じところはあるんだなと思えた。

◎          ◎

大学受験と同時に自然と彼女とは距離を置いた。彼女のことは好きだ。一緒にいると楽しい。でも、一緒にいるとどうしても「自分が劣っている存在だ」と思い知らされる。住む世界が違うってやつなんだろう。また会いたいと思うけれど、学生時代のように彼女と自分との差を感じて傷ついてしまうかもしれない。そう思うと連絡をするのを躊躇ってしまう。きっと私から彼女に連絡することは今後もないだろう。もし今会えたとしたら、普通に友達になれるのかな。