疑問はあった、しかし行動できなかった。
周りと違うことが怖くて怖くて。誰にも聞けないし誰も教えてくれない。
そんな学生時代のモヤモヤの話。

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看護学生と看護師の間には、それぞれ違う道がある。
看護師は、いつでも看護学生の元へ来ることができる広くて真っ直ぐな道。
看護学生は、進む先に岩が置かれ細く頼りない進むのには勇気と気力が必要、そんな道だ。

なにが伝えたいのかというと、看護学生が看護師に話しかけるのは中々難しく勇気がいるということ。

その理由は、忙しくて話す時間が無かったりタイミングが合わないことだけではない。
看護師には、古いしきたりがあった。
看護学生の挨拶に看護師はスルーで返す。そんなものだった。
理由は聞けずに今に至るため不明となるが、学生時代厳しく教育され挨拶文句を暗記して実習で披露していたがついぞ返事が返ってくることは無かった。

その事に不安を感じ、他校の看護学生に挨拶について聞いたこともあった。
しかし、どこも挨拶は返ってこないと話していた。
挨拶を聞く暇がないのか、なんて返したらいいかわからないからしないのか色々考えたがわからなかった。

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そして、やがて看護学生が看護師になりしきたりに従い同じように接する。
さらにその先輩の姿を見て、後輩が育っていく。
負のスパイラルが続く状況だ。

誰が始めたかも、なんの意味があるのかすらわからない、そんなしきたりに黙って従う。
なんで?と思っても誰も声を上げたりしない。
壁に打ち付けられた釘のように、皆が同じ高さで並んでいる。自分が他と違う事がバレないように。

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これには、例外があり看護師が群れでない場合には挨拶は返ることがある。

「学生挨拶させていただきます。学生○名これより1時間のお昼休憩に入らせていただきます。午前中の御指導ありがとうございました。午後の御指導もよろしくお願いいたします」

ナースステーションで大きな声を出す。
1人しかいない看護師に向けて挨拶文句を伝える。
すると、「はぁーい」なんてぽつりと返事が帰ってくる場合があるのだ。
つまり、看護師という生き物は群れでは返事をしないが1人だと返してくれるということから周りに合わせる日本人の姿がしきたりになり引き継がれていたことがわかる。

現在務めている場所にも看護学生が実習に来る。
皆、緊張で顔色が悪く居場所がないと言わんばかりに隅に固まる看護学生たち。
辛かった学生時代の自分をみているかのようで、思い出して苦い気持ちになってしまう。
そして、私はというと看護師3年目。先輩も後輩もいる微妙な立場。
先輩といる時は先輩に合わせて無視。
後輩といる時は後輩に合わせて返したり返さなかったりと一貫性のない態度を取り続けている。
もっと立場ある看護師だったら、なんて言い訳をしてなんだかんだと疑問を解決せずに今まできてしまった。

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まだまだ沢山看護師の暗黙の了解やしきたりの謎はあるが、しきたりに関する1番の疑問。
誰にも聞けず、誰も話せないそんな疑問。
それでも、いつか古いしきたりが無くなって伸び伸びと学生が学べる環境がくることを祈る。
私も本当は返したいのだ。笑顔と声が人を繋ぐきっかけになるのだから。

「おはようございます」を笑顔でね。