2021年8月8日20時56分、私は30歳になる。2021年2月から投稿を続けてきた「かがみよかがみ」から卒業する時だ。
投稿できる最後のチャンスに、まとまらない思考をひとつひとつほぐしながらPCに向かう。
年齢なんてただの数字だ、という常套句がある。それでも、30歳までに「ちゃんとしたい」と願って過ごしてきた私にとって30歳は意味のある数字だ。
だから、決意表明として20代を振り返りつつ、これからについて記したい。

エッセイを通して、20代は30代のための礎となったことに気づいた

1年前、29歳になった時の夜、私は20代の最後の一年を人生を立て直すための期間と定めた。私の20代は正直なところ、あんまり納得できていなかったからだ。
一人暮らしを始めて11年目、働き始めて7年目。幼い頃から苦手だった整理整頓は相変わらずできなくて、部屋はいつもグチャグチャ(ついでに言うと、テレワークで仕事道具を家に置き始めたので過去最高に散らかっている)。学生の頃は無縁だったパワハラは、いまだに対処の仕方がわからず、職場の人間関係に押しつぶされそうになっていた。
いつもベストを尽くしてきたはずなのに、どんなにあがいても理想に届かない状態に不安を抱えていた。
だから、29歳の私は片付けがちゃんとできて、規則正しい生活を送って、仕事でもコンスタントに成果を出し続けて誰にも文句を言わせない! と誓ったのだ。
しかしどれひとつ成し得なかった。けれども「かがみよかがみ」のエッセイを通して、私の20代は確実に30代のための礎となったことに気づかされた。

書く前は「取るに足らない」と思っていた経験が、実は私を支える糧に

最大にして最後、一度きりのチャンスに賭けた。編入試験で培った力は今なお生きる」では、20代の初めに、大学編入学であこがれの大学へ入るための最後のチャンスをものにしたエピソードを書いた。
この頃の私は過去最高の馬力を出せたと思う。同時に、実は仲間にすごく支えられて肯定しあっていたからこそ、努力を続けられたことに気づいた。
隙だらけの恋人は「悲しいときは悲しく振る舞えば良い」と言った」では、他人に隙を見せて助けを求めるのが苦手な私にも、私の強がりを受け止めてくれる恋人がいること、そして、仕事でもプライベートでもさりげなく救いの手を差し伸べてくれる人生の先輩の存在があることを知った。
『ニコニコ顔にはニコニコ顔が集まる』。父の教えが招いた思わぬ苦労」では、どんなに仕事が辛くても、笑顔で温かい家庭をキープし続けた父に思いを馳せた。

どのエッセイも、世界中のどこにでも転がっている、ありふれたエピソードにすぎない。「かがみよかがみ」でランキング入りするような優れた筆致も、あっと驚くエピソードも持ち合わせていないから、これ以上どれだけ自分を掘り下げても、出てくる話はどこにでもある出来事になるだろう。
それでも、書く前はまったく「取るに足らない」と思っていた経験が、実は今の私を支える糧になっていたのだ。

まだまだ目標に向かって努力を続けられる馬力を持っている自分がいる

踏ん張った経験、涙を流した経験、助けられた経験が折り重なって、ちょっとやそっとのことではめげない心と、まだまだ目標に向かって努力を続けられる馬力を持っている自分がいる。
今まで、できないことばかりを数えて「ちゃんとできない」自分に押しつぶされていた。そのために身も心もすり減らして随分と時間を無駄にしてしまった。
その一方で20代の間にベストセラーを手がけたいという書籍編集者としての目標を叶え、いろんな世代の友達にも恵まれ、一生できないと思っていた恋人とも6年近く関係が続けられている。
30年間いろんな人に支えられて走り続けたのだから、きっとこれからも良いことを積み重ねていけるだろう。エッセイのおかげでそんな自信を得ることができた。
整理整頓ができるようになるにはとても、とってもとっても時間がかかると思うけれど(笑)。

20代で叶えられなかった目標も、新しい目標も叶える30代に

1991年8月8日20時56分、私はこの世に生をうけた。「深夜料金がかかる21時まで残り4分のところで生まれてくれたから、助かったわ」と、母は冗談めかして言ったことがある。
私が成し遂げたいことの全部は20代の間には間に合わなかった。けれど、生まれるとき、割増料金が加算される前に間に合ったときみたいに、これからどんどん間に合わせることを自らに誓う。
いや、もっと別の新しい目標も達成したい。できないことは無数にあるけれど、20代で培った力があるから、できることに変えられる。今のところ、編集だけでなくライターにも挑戦したいし、英語を磨いて翻訳もやってみたい。子供も授かって育てたい。趣味のアコーディオンを極めてバンドも組んでみたい。
やりたいことを一つひとつ叶える30代にしたい。

最後に、ごく私的なことをしたためる場を提供し、送ったすべてのエッセイに温かいコメントと採用のご連絡をくださった「かがみよかがみ」編集部の皆さまにお礼を申し上げて、一旦筆を置くことといたします。