大学卒業後、社会人になってもう数年。
今の私の職場には、働き盛りの20代後半~30代は、海外に赴任するというジョブローテンションがある。
そのため、国内に勤務している私の若手の次に年齢が若いのは、海外赴任経験済みの中堅層。
「マニュアルを覚えて仕事をする」ではなく、「若手は大海原に放り投げられて、いろいろと経験して、波に揉まれながら、成長していく」という、少々荒手だが実力と才能がある人材がぐんぐん成長していくような、OJTスタイルの若手育成を行う職場だ。
裁量が大きい分、私は、1年目から大きなプロジェクトを任されて、10歳、15歳、20歳も年上の人を相手取って、数千万円レベルの契約交渉を行ったり、ガンガン詰め寄りまくって組織の意見を背負って、仕事を進めている。
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1年目の頃は、いかに新人だということが外部の人々にばれないようにすることにこだわっていたけれど、働いているうちに、いつの間にか肝も据わって、「まぁなんとかなるよ」の精神で、多少のトラブル案件には動じなくなった。
上司が同席せずに、むしろ私が中心人物となって、外部の方々と会うことも多くなったこの頃、仕事の前後に、たわいもない会話をする余裕も生まれ、本当に色々な業種の人たちと出会った。
「金髪のイケおじアートディレクター」もいれば、「早口で詰め寄ってくる若手コンサル男」もいた。「どこか落ち着かない営業男子」もいたし、「誰もがかっこいいと言うような既婚男性」もいた。
気づいたら、10歳、15歳、20歳年上の相手は、男性ばかりで、相手方のリーダー人物が女性というのは少なかった。現代日本における女性管理職の現実だ。
仕事上の関係性とはいえ、外での打合せ終わりにお茶をする、といったお付き合いも増えた。
そのような場では、仕事の話から、職場の話、趣味の話に移り変わり、年齢が同じ20代の異性であれば「かわいい」と言われることもあり、「美人だね」と声を掛けられることもある。
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社会に出て働き始めてから、初めて私は「自分はかわいい」のだと知った。
もちろん幼少期はどんな子どもも「かわいい」と思う。
思春期を越えて、次第に「私らしい」ファッションとメイクをして、「私らしく」振る舞うようになってからは、ハーフによく間違われた。私は、どちらかというと、「かわいい」キャラではないと思っていたし、「美人だね」「きれいだね」「高嶺の花子さんって感じ」と声をかけられることの方が多かった。
だから、最近、「美人だね」「きれいだね」に加えて、なぜ「かわいい」と言われるようになったのかを考えてみた。
3年付き合った彼氏と別れてから、10か月近くかけて、私は変わってきた。
真っ黒のロングヘアを、ロゼブラウンのセミロングにした。
黒い四角い眼鏡を、べっ甲の丸い眼鏡にした。
「ちょっと男ウケ狙いすぎじゃない?」と思ってしまったけれど、フリルブラウスとマーメイドスカートを買った。
「私の大切な人はきっとこんな服が好みなんだろう」と思って、プリーツワンピースも買った。
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遠距離恋愛だったとはいえ、「彼氏がいるから」と断っていた。
異性と2人きりで会う約束も、仕事帰りの飲みのお誘いも、少しだけ行くようになった。
異性と2人きりで会うからといって、それがすぐ恋愛に発展するわけでも、友達以上恋人未満のグレーな関係性になるわけでもないけれど、なぜか、恋人がいる時には少しだけ後ろめたい気持ちがある。
「2人の将来について考えるだけでため息が出るような」元彼氏との恋愛に終止符を打った後、私には「大切にしたい」と思う、かけがえのない人もできた。
その人と一緒にいるときの「自分」が好きで、その人の前ではありのままの姿でいられる。
もう芽生えることはないだろうと思っていた、淡くて、胸が苦しくなるような「好き」の感情も生まれた。
彼氏と別れたら、むしろ「ときめき」を感じるようになったなんておかしな話かもしれないけれど、私は、今まで「自分はこんな女子力高い洋服は似合わないなぁ」と思って買わなかった服を買い、「私はもっと自由に生きていいんだ」と思ったら、人生が楽しくなった。
「ザ・男ウケ」の服を持ち始めてから、「かわいい」と言われることが増えた気がする。
「かわいい」と言われることは嬉しいけれど、いつかこの言葉にも賞味期限が来るのだろう。
「かわいい」と思われなくなることは、正直怖い。
女の子は誰だって、ずっと「かわいい」「きれい」だと思われていたいし、いつまでも女性として美しくありたい。
だけれど、いつか見た目の「かわいい」ではなく、内面の「かわいい」を言ってくれる人と、一生を添い遂げられたらと思う。