高校二年生の頃、特に理由もないのだが、教室にいると息苦しさを感じることがあった。友達とも仲良くいじめなんて全くなかったのだが、教室で授業を受けるのが億劫で図書室に籠る日々が続いていた。

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毎日図書室にいる私に司書さんは全く話しかけてこなかったのだがある日突然、ただ一冊の本を渡してきた。「香港の甘い豆腐」この小説は高校生の日本人の少女が、香港にいる顔も見たことのない父親を探しにいく話だ。

この主人公も私と同じような状況で学校での生活に息苦しさを感じていた。何をするにも悲観的で人生が上手く行かないのは父親がいないからだと他責するのが癖だった少女だが、香港の独特の空気や香港で暮らす自由な人々、そして父親と出会うことで自分らしさを取り戻していく。

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司書さんは読み終えた私に何も感想は聞いてこなかったし、その後も全く話しかけてこなかった。だが、私は不思議とその本を読み燃えた後から徐々に教室に戻れるようになっていた。いつの間にか私の中に私だけの香港を見つけていたのかもしれない。大人になった今、高校生の私が見つけた香港を探しに行きたいと思う。