4年間付き合った恋人と「本当に最後の別れ」をしたのは、今から5年程前の夏の日の夜のこと。2人でずっと着け続けたお揃いの指輪をトンカチでペシャンコに潰して、破いた思い出の写真を入れた袋に入れて、まとめて捨てた。
別れた相手との思い出の品であろうと物に罪はない、物は大切にする、という信条だった自分がそこまでしなければいけなかったのは、彼と4年間で別れた回数が6回に及ぶからだ。
周りの友達はもちろん親からも「いい加減離れたら」と言われていたにも関わらず、なかなかキッパリと離れられなかった理由は、「若気の至り」と言いたい恥ずかしい程の妄信だ。
いつの間にか惹かれていった年下の彼。彼の好きなものに染まっていく
彼と出会ったのは大学2年生の夏だった。
年上男性との恋愛に憧れていた自分は1つ年下の彼を恋愛対象としては見ておらず、だからこそ様々な分野まで話が弾んだ。そのおかげか、彼の年下とは思えない程に落ち着いた雰囲気、様々な事への豊富な知識と好奇心に、みるみる惹かれていき冬を迎える前には付き合い始めていた。
定番のデートは彼の家での映画デート。彼の集めた映画DVD集から各々1本ずつ選んで、観る。観た後に小1時間程感想を言い合ったり、インターネット上に掲載されているレビューを読み漁っては考察したりして過ごす時間も大好きだった。
映画だけでなく、彼の好きな音楽にも染まっていく。図書館で本やCDを借りては学び、携帯は彼の好きなジャズミュージシャンの曲でいっぱいになっていった。
渋谷のど真ん中での喧嘩、数十万のプレゼント。あの頃はどうかしてた
しかし一方で、口が達者な私たちはよく喧嘩もした。どのような理由で喧嘩をしていたかを覚えていないが、覚えていられない程に下らない理由だったのだと思う。
喧嘩の場所は公共の場にも及んだ。最も記憶に残っているのは渋谷の街中で彼に荷物とジュースをぶちまけられた喧嘩で、私の鉄板ネタになっている。
それほど派手に醜い喧嘩をしていたにも関わらず、終わるとケロッとして愛を語り合い、彼の誕生日には数十万の海外旅行をプレゼントしていたのだからまさに「妄信」だった。周りが止めるのも無理はない、むしろそれこそ「正常」な判断だったのだが、これもまさに「若気の至り」で自分にしか彼を正しく理解してあげられないのだと信じきっていた。
こうして交際4年間で6回もの破局を繰り返し、そうして何度も自分達は苦難を乗り越え愛を強めていったと妄信していった。
指輪は壊して捨てた。私の理性を取り戻してくれた出来事とは
そんな大恋愛から理性を取り戻したのは、彼の携帯に何度も来る女性からの連絡に気づいたからだった。
問いただすとバイト先やサークルでの連絡でしかない等とかわされたが、それにしては会う度通知が来るのは怪しい。はじめは浮気を疑ったが、浮気ならまだ良かった。彼は何人もの後輩女性に昼夜を問わず会いたいと連絡を入れ、ある人にはしつこいと遠回しに言われ、ある人には真夜中の誘いを嫌がられていた。
後輩女性達に必死に追いすがる彼を、私は初めて「情けない」と感じた。それでも少しの間の気の迷いだろうと思い続けていたが、数週間経っても通知は鳴りやまない。
最後のデートは、今でもハッキリと覚えている。当時気に入っていた喫茶店で彼にまだ連絡を取っているのかと訊き、彼が苛立った口調でもう取っていないと言った、その瞬間に彼の携帯に表示された女性の名前。
初めて彼に対して「気持ち悪い」という感情が芽生え、別れ話に至るまではそう長い時間はかからなかった。
こうして私の大恋愛は幕を閉じる。あんなにも大好きだった彼を気持ち悪いと感じながら、二度と同じ轍を踏まない為に大事にしてきた指輪を壊して捨てる程、強い決意を込めて別れた。
もしも今、「私にしか分からない彼の良いところ」に夢中になっている人が目の前に居てアドバイスを求められたならば、一言だけ。
「幻滅してしまう前に、周りの意見をちゃんと聞いた方が幸せになれると思う」