私はうつ病で昨年の11月下旬ごろから今の今まで休職をしている。いずれは復職したい、と考えているが別にうつ病が寛解したわけではない。睡眠薬に抗うつ剤、急激な不安に襲われたときの頓服薬。これがないと今の私は生活ができないのだ。

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休職をしたことで今まで仕事に充てていた時間が急に自由時間になってしまった。

しかし、身体に染み付いた生活習慣は抜けないもので、夜中の3時に寝ようが、いつも起きていた7時には毎朝目が覚めてしまう。そして覚めているだけで、脳の誤作動で私の身体は鉛のように重くなっているため、起き上がるのはこの3時間ほど後である。

その間、自宅近くの幼稚園から子どもたちの元気な声が聞こえてくる。相反するように私は布団に潜り、耳をふさいで目を閉じ、じっと時間が過ぎるのを待っている。

「ぐー……」

時間はもう11時を過ぎたころだろうか、私はお腹の虫が鳴る音を聞きながら、仕方なしに布団から出て、生命維持の食事を摂取する。

食事をすると、ぼんやりとしていた頭の中が少しだけはっきりとしてきた。私の場合は、起床からお昼頃までが抑うつ状態のピークで、夕方から夜が比較的元気になるタイプだった。そのため、大体休職中は、出かけるにしても午後、ないしは夕方以降になってしまっていた。

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今日もそのような形になっていた。どこに出かけようか……と思いスマホで周辺の穴場スポットを検索する。御朱印を集めることを一時期趣味にしていたため、どこかいい寺社仏閣がないか探すと、とある場所がヒットした。

横須賀市にある走水神社だ。女子力アップや縁結びのパワースポットとして密かに人気な神社だった。無料の駐車場もあったため、私はさっそく準備をしそこに向かった。

到着したのは14時半を回ったころだった。御朱印の受付は15時までの為、急いで書いてもらい、目的を果たした後にお参り、神社内を散策した。平日だったこともあり、人はまばら。私は上へと続く階段を息を切らしながら登っていった。
頂上まで半分と少し過ぎたところにベンチが置かれていた。そのベンチ周辺だけは木々がなく、青く綺麗な海を一望することが出来た。あまりの綺麗さに、私は先ほど書いてもらったばかりの御朱印と共にその景色を写真に収めた。

そしてベンチに座り、しばらくそこから浦賀の海を眺めていた。うつ病、彼氏なし、貯金なしの私だけど、その瞬間だけは嫌なことを忘れて景色に没頭していた。

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この出来事があった日以降、調子のいい日には車を出して横須賀、三浦、鎌倉あたりを中心に、景色の良い場所を探したり、寺社仏閣に足を運ぶようになった。まだまだ本調子ではないため、出かけた次の日は反動なのか一日中寝たきりにはなってしまうが、それでも時間がある今しかできない小さな冒険を楽しんでいた。

しかし、正直な話をしてしまうが、本当に心の底から楽しめているか、と問われると微妙なところである。やはり、今この瞬間に私が休職している分の穴埋めをしている人が確かにいて、そこへの罪悪感は何をしていても付きまとってくるからだ。ただ、社会人3年目、長期休みなし、祝日も関係なし、年末年始も出勤していた私への頑張ったご褒美だと思うことにし、一旦その罪悪感には蓋をさせてもらった。

そしてこの期間は、実家や祖父母の家にも帰省していた。仕事があるから、とずっと顔を合わせていなかった家族との時間を久々に作ることが出来た。久しぶりに会った祖父母は、私の記憶の中の祖父母よりも幾分か年を取っていて、残りの時間を大切にしなければ、と思い直すいいきっかけにもなった。

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仕事をしなくなってから早3ヶ月。劇的に体調が良くなった、という実感は湧かないが、それでも今振り返れば、私には必要な時間だったのではないか、と思っている。

休職を選択できた自分を褒めてあげたいし、休職を悩んでいる方がいれば、完全に潰れてしまう前に勧めてあげたい。そしてうんと自分を甘やかしてほしい。

私自身、休職をしてやっと自分に優しくすることを覚えた人間だから、貴方も自分自身のこと大切にしてあげてほしい。そして、その選択の1つが休職なのだ、と私は考えている。