「行ってらっしゃい」

きっと、満面の笑みで送り出すことができる。
そう、私は確信している。
今までの私だったら考えられないことだ。
彼氏とは付き合って半年が経とうとしている。

自分で思うに、いや、側から見ても、結構、順調だ。

出会いはよくあるマッチングアプリ。
私は当時、パワハラ上司にほとほと参っていたので、誰かに愚痴を聞いてほしかった。
正直、誰でも良かった。
「全然僕を捌け口にしてもらっていいですよ。知り合ったばかりの方が言いやすいかもしれないですし」その言葉に甘えて、毎日のように電話をした。
今思えば、会ったこともない相手の愚痴をよく聞いてくれたな、と思う。
今度お菓子でも買ってあげようっと。

◎          ◎

最初に会ったのは、電話をするようになってから1ヶ月が経った頃。
初対面だったが、私が自分の汚い部分を全面的に晒してきたおかげ(?)もあり、話が弾んだ。
そもそも、相手の傾聴力が優れているうえに、話し上手でもあるのだ。
一緒にいると楽しくて、お昼に集合したのに気付いたら時計は21時を回っている。
内心帰りたくないと思いつつ、健全に駅で解散し、余韻に浸りながら帰宅する。
こんな学生時代の恋愛のような、甘酸っぱい気持ちはいつぶりだろうと思いながら。

また1ヶ月ほど経った頃。

「お付き合いをしていただけますか」

夜景を見ながらその言葉を聞いた瞬間、顔に血が上って赤くなり、自分で自分の呼吸が早くなるのが分かった(その言葉を発する前の相手は見るからに挙動不審で、「あ、今から告白されるのかな」とちょっとだけ予測できてしまったのはご愛嬌)。

答えはもちろん決まっていた。

「よろしくお願いします」

◎          ◎

お付き合いを始めてから、私はとっても精神が安定した気がしている。
嫌なことがあって落ち込んでもすぐに切り替えることができるようになったし、何より、もっと成長したい、頑張りたい、と素直に思えるようになった。
今までの私は、人と比べて落ち込んだり、妬んだりすることが少なからずあった。
きっと今の恋人が、落ち込んでも前向きな言葉をかけてくれたり、自分を無条件で肯定してくれたりするからだろう。

本当に、感謝してもしきれない。
だが、そんな順風満帆な毎日は続かない。私達には、タイムリミットがある。
恋人は、4月から、転勤することが決まっている。しかも、2年間。

……遠距離になってしまう。
出会ったときからそのことは聞いていたものの、実際に相手の引っ越す日が近づいてくると、「ああ、もうこの人は私の近くにいないんだな」と嫌でも自覚してしまう。

◎          ◎

寂しい、寂しい、寂しい。不意に大きな大きな不安の塊が襲ってくることがある。
最初から分かっていたことではないか。
私には私の、人生がある。
彼に支えてもらうわけにはいかない。
彼についていく人生ではいけない。
私には私の、叶えたい人生がある。
だから、私は残ることを選んだ。

もしかしたら、今後、お別れするかもしれない。
彼は、今は戻ってくると言ってくれているけれど、もう戻ってはこないかもしれない。
……それはそれで、人生だ。そう思えるようになったのも、彼がありのままの私を受け入れてくれて、認めてくれたから。
私は私の力で、生きていける。幸せになれる。
人生はどうなるかなんて、分からない。絶対なんて、ない。
もし別れることになっても、私はきっと彼に感謝するだろう。
今まで、本当にありがとう。

……でもやっぱり、ちょっとだけ、期待させてね。

「行ってらっしゃい!これからもよろしく!」