今年の夏、たくさん口にした言葉は「初めて体験することだらけだね」だと思う。
時計は電池が切れているのに、時は着々と進んでいる。電池交換してよと誰かが声を発して、交換してくれる人が見つかっても、その人の持ってる電池は形が合わず時計にはまらない。なかなか針を刻めない時計を全員で眺める日々が続いている、ここ1年を私はそんな風に感じてきた。
世の中の動きは止まったように感じるなか、私の人生は大きな動きがあった。
人生を添いとげる約束ができるパートナーが出来たのだ。

ようやくできた彼は転勤族。いつ、どこへ辞令が出るかわからない

彼との出会いは、今流行りの出会い系アプリだ。一昨年のクリスマスに友達と「来年は彼氏を作ってクリスマス一緒に過ごすのやめよう」というノリで登録した。
登録してからわんさか来る「いいね」とメッセージ。使い方にも慣れた1週間後に「いいね」を送ってきたのが彼だった。
いいねをくれた翌週にご飯に行き、トントン拍子で付き合うことになった。私が惹かれた彼の魅力は、背が高いところだけだった。

彼は転勤族だ。長くて3年、短くて1年のスパンで辞令が出る。
去年の秋頃、「多分来年の2月に辞令が出る｣と打ち明けられ、「今住んでる所からそんなに遠くない場所だと言われているから、良かったら一緒に住んでみない？」とお誘いしてもらった。もちろんだ、一緒に住んでみてこの先の事を考えて行けたらいいと考え、噂で聞いた未来の勤務地周辺の物件を2人で調べ合っていた。
実際2月に辞令は出たが、場所は彼が聞いていたのと違う遠い所になった。彼は申し訳なさそうに私に辞令を話してくれた。
「じゃあ……一緒に住めないね。私そこから今の職場に通えないし。今より会う頻度落ちちゃうのかな」
落ち込みかけた私に彼が言った言葉は「ついてきて欲しい」だった。

トントン拍子に進む彼との新しい生活は、初めての連続でワクワクする

春頃、またトントン拍子で親に挨拶、家具家電の購入、結婚指輪の購入、入籍、職場や友達に結婚報告、私の会社退職手続きが行われた。私の勤めていた会社の都合で離職日は少し伸ばされ、彼だけ先に新しい土地へ引越して行った。
忙しくて息があがる春だった。彼といると何故か物事がスムーズに進む。おっとりしているが、決断力が早いんだろうと最近思う。

今年の夏はあっという間に来た。仕事の引き継ぎも終わり、無事に私は会社を辞めた。
28年間暮らした街から引越しをした。寂しさはあったが、これから始まる新しい生活にワクワクしていた。
「行ってらっしゃい」と「お帰りなさい」を初めて言った日には、「なんかこの感じ、初めてだな」と言われた。当たり前すぎて笑った。
付き合っていた時は別々に住んでいて、会うのは休日のみだったから、彼のお見送りとお出迎えはしたことがない。当たり前のことをニコニコして言うからおかしくて仕方なかった。
私がすごく笑ったからか、彼はことある事に「こういうの初めてだね」と言うようになり、私は「初めて体験することだらけだね」と返すようになった。

夏が終わる頃には2人で暮らすのにも慣れ、初めてが少なくなっていくだろうが、これから我が家には子猫が来ることになっている。
心から笑い合える何かが、また見つかるかもしれない。