今の出向先の男性上司とは仲が良い。東京のお父さんのような存在で、よくコンビニスイーツを差し入れしてくれる。それを食べながら、一緒に色々と語るのが日課のようになっている。

その上司は社員で顔が広いこともあり、部署の他の人たちも知らない会社事情を教えてくれる。あの人とあの人は仲が悪い。あの部署はこんなことで揉めている。他にも上司自身の愚痴を聞くこともあるけれど、中には仕事を円滑に進めるための情報もあるので、それに関しては役立っている。

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そんな上司から先日、あることを聞いた。どうやら上司は、同じ部署のある2人のことが気になるらしい。30代半ばの男性Fさんと、20代半ばの女性Tさん。どちらも私と同じ出向者なのだけれど、最近すごく仲が良いようだ。

終業後、毎日のように会社の外の柱の陰で話している姿を数人から目撃されており、上司は「もしかして……」と2人の関係を疑っている。

実は、上司は恋バナ大好きオジなので、この手の話をするときはいつも何だか楽しそう。もちろん、今回の件についてもワクワクした様子で語ってくれた。

私もその2人が話している所を何度か見かけたことがあったけれど、まさか毎日だとは思わなかった。なるべく早く帰りたい私は、2人のことはあまり気にせず声も掛けなかった。

上司の他に目撃していた人たちも、上司と同様に2人の関係を疑っていた。過去にも、私がいる部署では男性社員と女性スタッフのカップルがいたことがあり、彼らは結婚している(女性の方は寿退社)。結婚報告までコソコソ交際していたらしいが、その当時も上司たちは勘づいていたようだ。

久々の部署内カップルの予感に、きっと上司は浮かれていたのだろう。突然、私に「あなたも早くしないと先越されちゃうよ」と言ってきた。

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私には、プライベートで片思いしている人がいる。なかなか進展がないのを上司も知っているので、それに対して「(私より若いTさんの方が)先に恋人できちゃうよ」という意味で言っていたのだと思う。

上司は恋愛や結婚に関して、度々古い考えで発言してくることがあった。そういう世代の人だからと今まで気にしないようにしてきたし、愛想笑いですませていたけれど、今回はちょっと無理だった。自分の恋愛が上手くいっていないこともあるけれど、このときは何だかムカついてしまったのである。

流石にブチ切れることはしなかったけれど、言われたことに対して不快感はかなりあった。私は、自分の感情を押し殺しながら「恋愛は競争じゃないですからねー」「将来子どもは絶対ではないので、結婚も急いでないです」と冷静に言い返した。

私に笑顔がなくなり焦ったのだろう。上司は「あ、そうだよねー」と答えて、別の話題に変えていた。

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この出来事以来、私は恋愛や結婚の話題になると上司に自分の意見をはっきり言うようになった。

「子どもは若いうちに産んどいたほうがいい」と言われたことがあったけれど、それは上司夫婦はお子さんたちを大変な思いをして遅くに授かったということがあっての発言かもしれない。私は常に相手の立場で物事を考えるので汲み取れたけれど、それを抜きにしてみると価値観を押しつけられているような気分になる。

そもそも、多分私じゃなかったら「先越されちゃうよ」「若いうちに子どもを産め」なんて言われたら、ハラスメントで然るべき部署に相談しているに違いない。

私の地元は田舎なのだけれど、今で言うハラスメント系の発言だらけの環境で育ったので慣れてしまっていた。だから、そういったことを言われても平気な顔をしたり、上手く受け流したりしてきた。

でも、時代が進むにつれて、日本はハラスメントについて向き合うようになった。テレビのニュースでも、様々なハラスメントについて報道されるようになった。私も、ハラスメントに慣れることはもうやめようと思う。きっと、気づかないうちに傷ついているし、何も言わなければそういった発言を肯定してしまうことになるから。

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男性もハラスメントの被害者になることはあるけれど、どちらかと言うと今まで女性の方が嫌な思いをしてきていて、今もまだその割合は多いように思える。だから、女性である自分が声を上げていこうと決めた。昔はビクビクしてあまり自分の意見を言えなかったけれど、大人になった今、この時代だからこそもっと強くならなければならない。

「私は私です」「“女性はこうあるべき”はもう古いです」と、しっかり伝えていくことで、少しずつ自分の周りから変えていけると信じている。