タイミング、悪かったかなぁ……。
それが第一印象だった。

2020年6月に大企業を対象に施行されていた「パワハラ防止法」が、2022年4月に中小企業を含めて全面義務化された。
コロナウイルス流行によるテレワークの拡大で、パワハラ防止法の影響や効果が現れているのか何とも言えないが、依然としてパワハラの抑止には至っていないようだ。
大企業だけでなく、中小企業も対象になるとのことで、各会社におけるパワハラへの速やかな対応や問題解決、環境解決が求められるようになるだろう。

私がこのニュースを知ったのは2022年3月、会社を休職している時だった。

企業理念に共感して選んだ会社で、上司からの過剰な指導

私はとある中小企業に新卒として入社した。大企業に関心がなかったわけではないが、大人数が苦手であること、大企業の肩書きを得るメリットが私には感じられなかったこと、そして何より内定先の企業理念と事業内容に共感し、この会社を選んだ。

研修期間を経て、配属先が決まった。しかし、それから約3ヶ月後、上司から過剰かつ一方的な指導を受けた。その内容は入社したての私には難しく、長時間の指導に耐えるので精一杯だった。
限界に達した私は周囲に配慮してもらい、上司と一時的に距離を置いた。そして2週間ほど経って、ようやく和解した。

しかし、上司は変わっていなかった。その後も上司との間でトラブルが何度か再発した。
そのストレスで、心身ともにボロボロになってしまった。
それでも、仕事自体は好きだったため、ストレスを仕事で忘れようとしたが、心身が限界に達し、私は常軌を逸した行動をしてしまった。
心療内科で診てもらった結果、適応障害だった。3ヶ月の休職が決まった。

休職中にこのニュースを知り、複雑な気持ちになった。
もし、半年早く、パワハラ防止法の対象に中小企業が含まれていたら。
それとも、あと数ヶ月間、自分をコントロールして我慢できていたら。
考えたけれど、結局、ないものねだりだ。

穏やかな部署で働けている今も引きずる、元上司のトラウマ

3ヶ月の休職を終え、別の部署に配属された。その部署は穏やかな人が多く、新しい上司も過剰な要求をせず、私の心身を労ってくれている。この上司の元でなら安心して働けそう。そう思った。

一方、元上司のトラウマをまだ引きずっている。
作業場所は別々になったものの、元上司とすれ違ったり、視界に元上司が入るだけで辛い気持ちになる。
最近では、メーリス経由で届く元上司からのメールや、たまたまとった内線の相手が元上司だった時は軽くパニックになる。

これまで私が受けた、そして、見てきた元上司の行為はパワハラだと思う。
過剰な指導は私だけでなく、先輩や他部署の社員、辞めていった社員も受けていた。
そして、元上司はネガティブな独り言や舌打ちなどを頻繁にする人だ。当然、その場の空気が悪くなる。この行為は社内規定のハラスメントの項目に該当する。しかし、誰も何も指摘しなかった。

「会社が好き」と言うならば、社員を大切にしてほしい

異動する前、まだ、上司との関係性がそこまで悪くなかった頃、元上司は「会社が好きだ」と言っていた。私も同感だった。
しかし、なぜ社員に度を超えてきつく当たるのだろうかと考えた。
きっと、会社が好きだからだ。
いい商品を提供したくて、お客様に喜ばれるのが嬉しくて、仕事に取り組んできた人だ。
こだわりが強すぎたために、社員に対する当たりが厳しいのだろう。

もし、この予想が正しければ、上司の気持ちに共感できる部分もある。
しかし、毛細血管がプツプツ切れて、内出血が青黒く皮膚上に浮き出るように、社内で起きたいくつものパワハラが、いつか表立ってしまうかもしれない。
私は、それが怖い。

今の元上司は小さく見える。そんな元上司に言いたい。
あなたが会社が好きなら、社員を大切にしてほしい。
それが直らないのならば、私はこの会社で働くことを諦める。
しかし、私は元上司が変わることに、さほど期待していない。