ありのまま生きることを決めた雪の女王の映画主題歌を口ずさみ北海道の冬を乗り越えてきた私が、雨の日も楽しく乗り越えられそうなとある映画に出会った。作品名は『雨に唄えば』。言わずもがなミュージカル映画の金字塔である。テンポの良い展開と名曲の数々に、一度見てすぐ大好きな作品になった。特に土砂降りのストリートを主人公が歌い踊り歩くシーンが好きだ。雨に打たれるのもお構いなしの主人公から、嬉しい気持ちがこちらにまで伝わってきて胸が高鳴る。

現実の雨の日はいつもどんより気分。福祉の仕事をしていたこともあり、外に出られないというだけで日中の活動内容が狭まるもどかしさを感じてきた。あぁ、雨の日でもあの映画のように上機嫌で過ごすことができたらどんなにいいだろう。あのシーンを体験できたら雨も好きになれるかもしれるだろうかと、密かに真似しようとしてみたことがある。

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検証1日目。仕事帰りに突然の豪雨。どうせ帰るだけだと、思い立ったように脳内であのシーンをなぞり傘をささずに帰ってみる。あの映画を見た後だと、雨に濡れることも趣深い気さえした。しかし帰宅後、困った。どうやってもコンタクトレンズが外れない。雨水が目の中に入ったからなのか、ぺったりと、目に張り付いて取れず大変に焦った。洗面台の鏡の前で、もう雨の日なんてこりごりだと思う。いや待てよ。とはいえ、コンタクトレンズ外れない問題さえクリアできれば、楽しく愉快な体験だったかもしれない。一旦そう思い込むことにする。

検証2日目は“菜種梅雨”と呼ばれるらしいある春の大雨の日。前回のコンタクトレンズの反省を踏まえ傘をさし、BGMはもちろんあのシーン。人目があるので気持ちだけはスキップをしながら、ひたすら歩いてみる。気づけばスカートの色はすっかり重く存在感を増し、一歩進むごとに靴下から水分がとめどなく絞られていた。…さすがにこれは、全く雨を楽しめていないかもしれない。

そんなこんなで結局、仮説ライフハックは見事不発。大好きな映画曲に頼っても、雨を楽しむことはできなかった。いつだってご機嫌でいたいのに、結局お天気ひとつに左右される自分が不甲斐ない。

よく考えたら、そもそもあの場面を再現したら上機嫌になれると考えたこと自体が浅はかなのだ。あの場面で雨の中歌い踊る彼にとっては、雨なんて問題ではない。雨を楽しむために歌っているわけではなく、たまらなく嬉しい出来事があったから歌うし、踊っているのではないか内側から生まれるパッションに身体が突き動かされているのである。

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そういえば最近見た映画にも、雨の中主人公がスキップやジャンプをしながら嬉しい出来事を噛み締めるシーンがあった。私があの主人公たちのように雨の日を過ごすために必要なのは、雨を楽しむための小細工や振る舞いなどではなく、居ても立っても居られないほどのBIGJOY!

台本も演出もない現実の世界を生きる私の次の検証は、自分の喜びについてアンテナを張ることから始めたい。いつか、雨の日が好きになるほど美しいあのシーンに見合うような喜びに、出会えますように。