都会に憧れた私が、彼の町が「帰りたい場所」になった理由

地元に思い入れはない。嫌いではないが、そんなに良いところでもないし、別に好きではない。
私が生まれ育った町は田舎だ。電車も通っていないし、バスは一時間に一本しかない。小学校も中学校も一つずつ。だが"ド"がつくほどの田舎かといったら、そういう訳でもない。車移動が基本ではあるがスーパーもコンビニもあるし、近年道の駅がリニューアルして町外から来る人も増えた。いわゆる「田舎」と聞いて思い浮かぶ、田んぼや畑だらけの風景とは少し違う。でもやっぱり田舎ではある。
いっそのこともっともっと寂れていたらド田舎となってテレビのロケが来る可能性だってあるだろうに、なんだか中途半端で、そんなところも地元があまり好きではない所以だ。
生まれた町を出た私が次に住んだのは、駅まで徒歩一分という好立地だった。ただし駅の周りには田んぼが広がっているし、駅員もいない。それでも駅まで歩いて行けるというのは、それまで駅のない町に住んでいた私にとって魅力的だった。
大型スーパーやコンビニが建ち並ぶ隣の駅までは、徒歩40分ほどだった。決して近いとは言えないが、たまに散歩がてら歩くこともあった。
昔は都会に憧れもあった。コンビニは広告の通り「近くて便利」だし、電車なんて一本逃しても遅刻なんてしない。そんな素晴らしい生活をできる場所が日本国内にあるとわかったら、都会に住みたいと願うのは至極当然だった。
しかし都会は疲れる。長時間都会にいると、田舎の空気を吸いたくなってしまう。田舎生まれの恐ろしさよ。
そんな訳で私は頭では都会が良いと思いつつ、体は田舎を求めてしまう憐れなモンスターなので、早々に都会人になることを諦めた。
では将来どこに住みたいかと問われると、今付き合っている彼の地元に住みたい。彼の地元に骨を埋める覚悟はもうできている。
現在は彼と同棲しているが、住んでいるのは彼の地元の近くだ。今住んでいるところが、今までで一番住み心地が良い。
まずアパートの目の前にドラッグストアがある。ファミレスがある。弁当屋がある。コンビニがある。バス停がある。少し歩けば24時間営業のスーパーがある。100円ショップがある。アパートの近くでほとんど用事が済んでしまうのだ。
そして肝心の「空気」は、田舎の空気。栄えているのと反対方向を向くと緑が広がっている。便利なところに住みたい、だけど田舎の空気を吸いたいという私の希望を完璧に叶えてくれた。
たまたまだが、引っ越すごとに住み心地が良くなっている。
地元に住んでいたときは、まさか自分が別の地域に住むなんて、思ってもいなかった。ただ漠然と、家を出たいと思っていただけだ。だから今、地元を出て、彼の地元の近くに住めていることが嬉しい。未来を具体的に思い描けることが嬉しい。
彼の地元で家を建てるのを、今日も心待ちにしている。
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