私の居心地のいい場所は、かつて住んでいた三重県北部のとある町だ。
小学校5年生までそこに住んでいて、転勤で横浜に引っ越した。
◎ ◎
横浜もいいところだった。みなとみらいエリアや鎌倉エリアを始め、国内外問わず観光客が集まる場所に往復500円くらいで行けるし、いつでも行けるからスケジュールを詰め込みすぎずに、のんびりだらだらと、いつも住んでいる住宅街とはかけ離れた環境を、ダル着で、休日や仕事帰りのひと時を楽しめた。
コンビニも一通りそろっていたし、病院も、安いスーパーも高いスーパーもあったし、服も雑貨も食料もどこでも手に入る便利な町だった。ストレスなく居心地よく過ごせていた。
一つデメリットをあげるとしたら、どこにいっても避けられない横浜のあの坂道は大変だった。
その後私はシェアハウスを始め、池袋から電車で40分の埼玉を始めとして、大手町に近い千代田線沿いや新宿や渋谷まで徒歩圏内のエリアに住んでみたり、静岡でリゾートバイトをしてみたり、その後東京駅まで徒歩30分のアパートに彼氏と一緒に住んでみたりした。
◎ ◎
都心は横浜と同じくらい便利だった。恵比寿も月島も六本木も日本橋も池袋もディズニーも羽田空港も成田空港もどこでも身軽に気軽に行けた。
東京メトロや都営地下鉄を使っていたから遅延なんてあんまりないし、遅延してもほかの路線で帰ってこれたし、雑誌やインフルエンサーが口をそろえて言う「一駅分は歩いてダイエット♪」なるものもできたし、毎日移動のストレスもなく居心地よく過ごした。
静岡もよかったな。静岡と言っても神奈川寄りだったからすぐに実家に帰ってこられたし、海の目の前なうえに昔ながらの商店街もあって、どれだけバイトで疲れても帰り道でほとんどリフレッシュが完了して帰宅してからの毎日の自炊も負担じゃなかった。
観光地だからデートスポットだらけだったし、名産品もおいしいし。
だけど、免許を持っていない私ですら、車社会で電車が不便すぎて観光地もデートスポットもない三重のあの町を選ぶ。
◎ ◎
都心は引っ越しをしても挨拶は不要、交流といえば住民とポストやエレベーターで鉢合わせ(してしまった)時の「おはようございます」「こんばんは」しかない。
人付き合いはそんなに好きじゃない私にはこんなドライな関係がすごく居心地がいい。
あの町では引っ越しの挨拶は当たり前で、立ち話をしたり、子供の習い事の送り迎えを当番制にしたり、一緒にコストコに限らずスーパーにも行っちゃうような仲だった。
すれ違う人には必ず挨拶をするし、その中でもよくすれ違う人とは仲良くなっちゃう。
私はそんな場は緊張して無駄に気を使いまくって疲労困憊になってその日は動けないと思う。
その点、居心地はよくない。
だけどそれでも私は、いつか三重県に戻りたいと思ってしまう。
◎ ◎
それに自然も豊かで星も見える。
田んぼと茶畑が広がっていて、雲も空も大きい。日光浴も出来る。そよ風も、強めの風も気持ちがいい。
都心の空は狭く、星は遠い存在。
日光もビルか地面からの照り返しで、感じるのはビル風だ。
だけどその代わりに毎日ビルやタワマンによる夜景が美しい。
朝日から夕日、雲も、星も楽しめるという点では三重県のほうがいい。
そして私は、東京や新宿の人混みも悪くないと思う派だ。
忙しさや雑踏も嫌いじゃない。楽しいし、面白い。緊張もしないし、酔いもしない。
満員電車は大の苦手だけど。
あ、だけどどうしても譲れないものがあった。
◎ ◎
三重は、西野カナさんや吉田沙保里さんはじめ、なんだか、顔立ちが優しい人や、天然な人が多い気がするのだ。
私の三重の友達もそうだった。
男女関係なく明らかにいい人そうな、優しそうなオーラが出ていて、クラスの半分は天然で、ご近所さんは全員のんびり屋さんで、どこか抜けていて、不思議で、かわいらしい子が多かった。
当時6歳の私に「バーゲンで服が安かったの!あ、ほうれん草はこのスーパーがいいんやで!ブロッコリーは別のスーパーがいいんやけど…」と、主婦同士の内容を話してくるママさんもいれば、東北出身の母が仙台味噌を使った味噌汁を出したら「あら~近所の人で赤だしじゃない人っておるんやな~!旅行に来たみたいやなぁ~!」と、どこからツッコミを入れたらいいのか分からない発言をしてくるママさんなど、毎日が漫才で、爆笑で、笑顔になる機会が多かった。
◎ ◎
静岡と同様に、スーパーに行くまでの車からの景色、小学校の帰り道だけですごく癒されて、疲労度は低かったかもしれない。横浜は軽乗車から高級車までが半分渋滞しているような状態で走り回る道がほとんどだったし、登下校も住宅街しか通らなかった。
力が抜ける人たちに囲まれて、一息つける環境に住めていたから居心地がいいのかもしれない。
みなさんも、ぜひ三重県民を観察して、天然で不思議かどうか見てほしいです。
そして、私にとって居心地のいい三重県の魅力が一人でも多くの方に伝わってほしいな、と思っています。