今年(2025年)の3月まで働いていた職場には、"お茶の時間"がありました。公式に決められたもので、1日2回、お茶を飲んだりお菓子をつまんだりする時間があったのです。最近嬉しかったことは、このお茶の時間に起きました。

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公式の休み時間なので、お茶の時間で飲むお茶やお菓子は、当番制で誰かが用意することになっていました。担当になった人は皆から集金し、その金額内でお茶(紅茶や日本茶だけでなく、コーヒーだったり、カフェオレだったりもします)やお菓子を買って、共用のボックスに入れておきます。

そこから、飲みたいものや食べたいものをお茶の時間に取り出すわけですが、何となく、お菓子やお茶のバリエーションは決まってきます。必ずしも"気分"にぴったり合ったお菓子を食べられるわけではないのです。

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ある日の、お茶の時間。

その日、私の頭に浮かんだのは、ドライいちごをまるごとホワイトチョコレートでコーティングしたお菓子でした。もちろん、そんなお菓子はレパートリーの中には含まれていません。食べることは不可能なのです。

けれど、休憩時間中に走っていけるくらいの距離のところに、そのお菓子を売っている場所があることを私は知っていました。頑張れば、買いに行けなくもありません。でも、わざわざ行くにはちょっと遠いし、お茶を飲む時間はすっかりなくなってしまうでしょう。 

「いま、ここに、あのチョコがあったらなぁ……」

なめらかで濃厚なホワイトチョコと、甘酸っぱさがぎゅっと濃縮されたドライいちご。あの組み合わせを口の中で思い浮かべただけで、ますます食べたくなってきます。

あのお菓子が食べたい、とつぶやく私に、同僚が言いました。「チョコなら、今日たまたま持ってきたんだった。取ってくるね」と。

こういうことはよくあって、旅行のお土産や、コンビニで見かけた美味しそうなスイーツを持ってきてくれる人がいれば、共用のボックスにはないお菓子を食べることもできます。

ロッカーに入っていた鞄から3つの小袋を取り出した同僚は、「中身は何か分からないけど……、どれがいい?」と、私ともう一人の同僚に尋ねました。

3つの小袋はどれも不透明で、中身は分かりません。でも、1つだけ、流れるような書体のアルファベットで、ピーカンナッツと書いてありました。きっと、ピーカンナッツがチョコでコーティングされているのでしょう。

「私は、これにしようかな」

これまで、ピーカンナッツを食べたことがないという同僚が、中身の分かっているその袋を選びました。残りは、2つ。私は、何となく白っぽい色の袋を選びました。その色からはホワイトチョコレートが想起されたからです。

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袋を開けると、ころんと丸い形をした白いチョコレートが数個入っているのが見えました。サイズ感的に、そのチョコの中には何かが入っていそうに見えました。もしかすると、マカダミアナッツが中に入っているのかもしれません。

でも、私の本能か何かが告げていました。これは、ドライいちごをコーティングしたホワイトチョコレートなのだと。

はやる気持ちをおさえてかじると、先ほどまで何度も想像していたあの味が広がりました。滑らかなチョコレートの後に続く、サクッとした軽い食感。甘酸っぱい味。……それは、紛れもなくいちごでした。

私は、思わず赤と白の断面を同僚に見せながら「中身、いちごでした!」と報告しました。

「こんなことで、今年1年分の運を使い果たしちゃってどうするの!」なんて冗談交じりに心配されたり、「今朝、特に何も考えずに持ってきたのが、まさか、ちょうど食べたいお菓子だったなんて。ちょっと怖いくらい」と怖がられたり。休憩時間に起きた小さな奇跡で、お茶の時間は、すっかり賑やかになりました。

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お茶の時間が終われば、また仕事。でも、仕事が終わっても、家に帰っても、この嬉しいできごとは、私の心をあたためてくれたのでした。