『しあわせは食べて寝て待て』というドラマにハマっている。

送開始前から、とても楽しみにしていた作品だった。大好きな役者さんである桜井ユキさんが主演と知った時点で視聴確定していたものの、耳触りが無性に心地いい、和やかでほっとするタイトルにも強く惹かれた。

◎          ◎

主人公のさとこは、持病の関係で体調が思わしくない日が多く、フルタイムの仕事に就くことが難しい。週4のパート勤務で質素なひとり暮らしを送っていた。
ある日さとこは家賃の安い部屋へ引っ越すことに決め、築45年の団地暮らしが始まる。それまでは人と距離を取りがちだったものの、生活を通じて団地の住人たちとの交流も広がっていく。さらに、親しくなったお隣さんに影響され、旬の食材を使った食事で身体と心を整える「薬膳」の世界にも足を踏み入れていく。

薬膳と出会って以来、コンビニのサンドイッチなどで適当に済ませていた昼食を自炊弁当に変えてみたりと、食生活を意識して変えていったさとこ。自分の体調や季節に合わせて食材を選び、心身がよろこぶ食事を丁寧に作る。病気が完治するわけではないけれど、薬膳のおかげで確実に以前よりも軽やかに日々を送っているさとこの姿を見ていると、「食」は決しておろそかにしてはいけないものなんだと思わせられる。ただお腹を満たすだけではない、生活をいくらでも豊かにしてくれる大きな力を持っている。

◎          ◎

わたし自身もまんまと影響を受け、つい先日、書店で薬膳の本を買った。部屋の中に物を増やすのは極力避けたいから、物理的にかさばる本を買うことは滅多にないのだけれど、今回ばかりは我慢できなかった。野菜や果物などが色とりどりに描かれた挿絵も魅力的で、ぱらぱらとページをめくるだけで心が自然と浮き立った。

ある日の夕食、明らかに食べ過ぎてしまったときがあった。
胃の中で燻っている吐き気のせいで気分が悪くて、吐いたら楽になれるんだろうな、でもできるだけ吐きたくはないな、なんていう押し問答をベッドの中で続けているうちにいつの間にか夢の中に堕ちてしまった。ただ、翌朝になってもうっすらとした気持ち悪さが体内に淀んでいて、まあそのうちどこかへ行ってくれるだろうと思っていたけれど、あてが外れていつになってもすっきりしない。1/4人前くらいの吐き気を翌々日まで持ち越してしまい、でも仕事は片付けなければならず、今日はスタバで作業したいと店内レジのメニューを眺めたところでふと目に止まったのが、ゆずシトラス&ティーだった。

そのとき頭の中によぎったのは、件(くだん)の薬膳の本の中で書かれていた、オレンジやみかんの効能に関する内容だった。確かオレンジは、胃の機能を整えて、食欲を促してくれる。みかんは、お腹の張りや吐き気を改善してくれる。物は試しだ飲んでみよう、と、今まで一度も選んだことのないゆずシトラス&ティーを願掛けのような気持ちで注文した。

◎          ◎

飲みながら作業すること約2時間。ひと段落ついたところで店を出たときには、胃のむかつきがだいぶ和らいでいて本当に驚いた。これはやっぱり、薬膳の力なのだろうか。気になってさらに調べてみたところ、柑橘類のほかに、生姜も吐き気の改善に効くらしい。その後立ち寄ったスーパーで早速生姜を調達し、その日の夕飯のメニューにはみじん切りにした生姜をたっぷり練り込んだ肉団子スープを取り入れた。生姜ならではの風味がたっぷり感じられて、身体の隅々までほかほかとした温かさが行き届く。吐き気はもう綺麗さっぱり消えて、心までうんと軽くなったような気がした。

平日の夜はなるべく自炊するようにしているけれど、何を作るか決めて食材の買い出しに行って料理をして…と、ほぼ毎日のことだと、一連の流れがつい作業チックになってしまう瞬間が度々ある。「単調だ」と少しでも感じてしまったら、もうこれっぽっちも愉しくなくなる。でも、『しあわせは食べて寝て待て』を観ていたら、せっかくごはんを作るのなら、愉しまないともったいないと改めて思うようになった。作ったものを食べて、食べたものが栄養になる。食べることによって、日々、わたしたちは生かされている。さとこのように、ひそやかに、でも明るく毎日を過ごしたい。

最近のわたしは、新たなロールモデルを見つけたような気分だ。