「好き」も「嬉しい」も、私の言葉がもうあなたを苦しめませんように

拝啓 わたしが好きだった人へ。
こんなふうに、別れて時間が経ってもまだあなたへの手紙を書いている私を知ったら、きっとあなたは引いちゃうだろうな。こういう、自分の気持ちを言葉にしないと気が済まない私の性格が、あなたの居心地を悪くさせたんだろうなって思うときもある。
でも、そんなあなたの態度を前に、飲み込むことしかできなかった言葉たちがまだ私の中に残っていて。それを私はどうにか消化しようとしているだけなんだ。どうか許して欲しい。
そしてどうか、この手紙があなたに届くことがありませんように。
「不安に応えるほどの気持ちがわいてこない」
別れ際のあなたの言葉が頭から離れなくて、その意味をずっと考えてた。
あなたにとって恋愛って、何かを「してあげなきゃいけない」とか「応えなきゃいけない」って自分を追い込むようなものだったのかな。
付き合いを楽しむより義務感や責任感のほうが先に立ってしまったら、それは確かに「好きかどうかわからない」ってなっちゃうかもしれないね。「あなたの時間を使ってる自覚を持ちます」なんて言葉、言わせたくなかった。私は、そんなことあなたに求めたつもりはなかったんだよ。
ただ一緒にベッドに寝転んでYouTube見て笑ったり、近所を散歩してパスタが美味しいカフェを見つけたり、そういうあなたとのくだらない瞬間が続いたらいいなって。ただそれだけを願ってた。
でも、そんなささやかな願いも、あなたにとってはプレッシャーになる。それに気づいてから私は、あなたの顔色ばかりうかがってた。
あの夜のこと、覚えてる?私が餃子を食べすぎて気持ち悪くなって、電車が来るまで一緒に駅の外の広間で休んでて。隣に座るあなたの肩に私の肩が触れたとき、本当はそのまま身体を預けてしまいたかった。
でも、もし肩を預けたら……。「いや…」って、きまずそうな顔をされるかも。振り払われるかも。
スマホの漫画に集中してるあなたを横目に、そんなマイナスな想像ばかりしちゃって泣いちゃいそうで。溢れそうな涙をこらえるのに必死で、餃子の気持ち悪さは飛んで行ったっけ。
それが私たちの最後だったね。一緒にいるのに一人ぼっちみたいな夜。
「先になっても大丈夫だから、会う予定考えてくれたら嬉しいけどどうかなぁ」
あのメッセージも、きっとあなたにとってはプレッシャーだったんだよね。あなたが忙しくて余裕がないのはわかってた。でも自分の本音も言ってみなきゃ伝わらないし…、って何度も消しては書いてを繰り返して、泣きながら送った言葉だった。
「ごめん、落ち着いたらご飯行こう」
もしそんな言葉が返ってきたら、私はきっと救われたのに。まさか別れ話になるほどあなたを苦しめるなんて、思いもしなかったんだよ。
あなたが苦しいのもわかってた。それでも、逃げないでほしかった。不器用でもいい。一緒に考えてくれたらって。
ただそれだけだったんだよ。
「友達に戻りたい。これで絶縁みたいになっちゃうのは寂しい」
別れ話の最後にあなたはそう言った。
「私は友達に戻れるかわからない」
あの瞬間はそう言っちゃったけど、友達期間のほうが長かった私たちだから、本当は嬉しかった。でもその言葉は、別れを綺麗に終わらせるための、優しい嘘だったのかな。
「私も友達だと思ってるよ」ってLINE。既読スルーするのが、あまりにもあなたらしかった。
そしてそれをわざわざ送っちゃうのも、あまりにも私らしかった。
正直に言うと、私の言葉がまた重かったのかなって後悔したこともあったし、一言くらい返してくれたらよかったのにってあなたを責めたこともあった。けど今はもう、どっちが悪いなんて思ってない。
ねぇ、もしまた会うことがあったらさ、「私たち、合わなかったね」って笑いあえたらいいな。
そしてどうか、「好き」も「楽しい」も「嬉しい」も、私が伝えた言葉たちが、上手く返せなかったとあなたを苦しめることがありませんように。
私との思い出が、「うまくできなかった恋愛」じゃなく、少しでも「温かい記憶」として残っていますように。
元気でね。
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