二月、一番好きなアイドルが受賞したお芝居の賞の授賞式に行った。

その前日、そわそわと眠れずにいるときにふと思った。「明日授賞式に行って、降りたら綺麗だろうな」と。いわゆる担降り。お芝居をきっかけに一目惚れした形で彼を好きになって、主演男優賞という一つの頂を見届けて降りる。客観的に見てとても綺麗だ。

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自分が登壇するわけでもないのに一張羅のワンピースを着て行った。とても寒い日だったけれど、授賞式というハレの場でそのワンピースを着ないという選択肢はわたしの中になかった。心臓が口から飛び出るんじゃないかと思うくらいに緊張していたけれど、登壇してきた彼を見たら文字通り右手と右足が同時に出てしまうんじゃないかってくらいガチガチに緊張していて、その愛らしさに自分の緊張は吹き飛ばされた。至近距離というほどではないけれど、今まで見てきた中で指折りの近い距離に彼がいた。

どんな言葉を紡ぐのだろうと期待をしていた。好きになって6年間、特にこの2〜3年間くらい、彼はいつだって渦中のひとだったから。音楽番組にメガネをかけて出演したらSNSのトレンドは大盛り上がり、声優に初挑戦したら国際的にも評価された。俳優として映画に出れば異例のロングランで世間からも業界からも賞賛され、アイドルとして5大ドームツアーも成功させた。フェスに出れば彼のことを初めて見る人も多い中でかっこよさに地面が揺れたとか、本物の黄色い声を聴いたとか言われていた。志してスポットライトを浴びる場所に進んできたことに説得力があるひとだと思う。そうして進むために磨かれてきた言葉は、触れるたびに煌めいて感じられた。

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綺麗な仕立てのブラックスーツを纏い重たそうなトロフィーを抱えて、相変わらず緊張した顔をして。お芝居や受賞について「素直に嬉しい」「ワクワクを胸に精進していきます」と。そして、所属するグループの仲間のことを「人生をかけて一生をともにすると集まっている」と語る彼を見て、わたしはもう一度一目惚れをした。青さや脆さ、熱を孕んで揺らぐ陽炎に惹かれたのが最初の一目惚れだとしたら、今回は星に一目惚れしたみたいだった。

静かで穏やかで、それでいてとんでもなく熱く眩しい輝きを放つ星。お芝居についてあまりポジティブでない発言を繰り返していた時期を知っている。その夜を越えた先で星みたいに煌めいてみせる彼の姿は希望だった。

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授賞式の会場を出て、とても晴れやかな気持ちで最寄り駅までの道を歩いた。生まれ直したような気分だった。降りずに一目惚れし直してしまったけれど、後悔はまったくなかった。過去のほろ苦い経験から綺麗に降りたいという思いは相変わらずわたしの中にあるけれど、まだ先で大丈夫だと確信してしまった。その確信の危うさを知った上で、それでも好きでいたいと願う。近いと思ったことなどない。いつだってその存在は遠く、その遠さが心地よい。空を見上げたら星が見えた。

今度のわたしの一目惚れはきっと暗闇でこそよく見える。いつかそのことに救われる日が来るのかもしれないという予感と、別にいつだって日常を染められてきた幸せな記憶と共に、今日も相変わらず彼を好きでいる。