私がその人と初めて会ったのは大学の講義だった。
遅れて入ってきたその人は後ろの扉から入り席に座った。

少し焼けた肌に笑えばニカッと音がつくような爽やかな人で私はすぐかっこいいなという印象を受けた。鼓動が速くなるのを感じて直ぐに一目惚れしたことを実感した。

それから数日経ち、同じゼミだったサッカー部に所属している男子からその人は私より学年が一つ上の4年生でサッカー部のキャプテンであることを知った。

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講義では接点のない私が話しかけるタイミングもなく、月日だけが過ぎていった。春から夏になる頃、講義でグループ学習があり運良く先輩と同じグループになれた。

私がLINEのグループを作ることになった。緊張で何を喋ったか覚えていないがLINEを交換することができた。先輩との話題が欲しくて、先輩の聴いているバンドの曲を聞いてみたり、趣味を聞いてみたり、サッカーのチームについて調べたりもした。講義について分からないところがあるので聞いてもいいか尋ねたら「俺で良ければ何でも聞いて!」と答えてくれ、人に頼られることが苦手な私は素直にこんな言葉を返してくれる人に尊敬と憧れを覚えた。それから話す機会は少しずつ増えていった。

しかし、自分に自信のなかった私は先輩に彼女の有無も聞けずにいた。アプローチがなかなかできずに冬が過ぎ、あっという間に先輩が卒業する春になった。

卒業式の日、お世話になった先輩数名に一輪のガーベラを用意した。先輩へは好きと伝える代わりに三本のガーベラにした。ほとんどの先輩に配り終え、最後に先輩へ渡そうと思い、連絡するも既に卒業パーティーの会場に向かうバスの中だった。一緒に写真を撮りたかったことを伝えると、「俺も撮りたかった!」と返信が来た。

行かなきゃ後悔すると思い、追いかけるように車で会場まで向かった。「着きました」と連絡して、しばらく経つとコツコツと階段を降りてくる足音が聞こえる。見ると先輩は私が大好きな笑顔でやってきた。先輩に渡すはずだった三本のガーベラは、お世話になった先輩に渡せず余った一輪を足して四本となった。

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後日、分かったことがある。ガーベラは本数によって花言葉が異なってくる。私が先輩にあげた本数によって託された花言葉は「あなたに一生の愛を捧げます」だった。

もう会うことはないかもしれない。しかし、あなたはずっと私の憧れの人であることや私が唯一、一目惚れをした人であることを私は覚えておきたかった。

大学を卒業して私は社会人4年目となった。卒業式シーズンになるとあの時の思い出が蘇る。久しぶりに先輩に連絡してみたい気持ちが大きくなり、先輩にLINEを送ってみる。

すると、先輩が今年の春から私と同じ県にいることが分かった。先輩は大学の時に教えてくれた夢を掴んでいた。自分に厳しく、妥協しないやっぱりすごい人だなと実感する。そしてまた、気になり始めた。社会人になった私はあの時よりも少しだけ強くなっていた。

どうせ生きるなら後悔しないように楽しく生きたいと思ったからだ。自分に自信がないうちは行動に移すことをためらっていた。どうせ無理と諦めることが多く、失敗したら恥ずかしいとさえ思っていた。しかし、卒業式の日に先輩のことが好きだった、一目惚れをしていたことを伝えらなかったことがなぜかずっと心の底に残っていた。

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今の私は、先輩に彼女がいないことも聞けたし、好きなご飯、休みの日にしてることも知れた。そして、来月私は、先輩とご飯に行く約束をした。

何かを始めるときは勇気が出なかったり、自信をなくしたりすることもあるかもしれない。でも、一歩踏み出すことで何かが変わるかもしれない。今度は会って自分の言葉で伝えたい。「先輩に一目惚れしてます」と。