行きつけのカフェにて。私を含めた老若男女の常連さん数名で夜喫茶の時間を楽しんでいた時のこと。
他の常連さんは古着やフィギュアなどのコレクションをしている人が多く、「家にあるものを捨てられない」といった話で盛り上がっていた。かくいう私は、人にものを貰ったら自分の持ち物を2つほど捨てるため、どんどん荷物が減っていくことから「意図せずミニマリスト」という話をしていた。
なぜ自分の持ち物を2つほど捨てるのか自問自答してみたが、無意識にゴミ箱に入れているのでやはり「意図せずミニマリスト」なのだろう。
すると、親世代の女性の常連さんから「リサさんはなんだか“わらしべ長者”みたいやなぁ〜」と言われて、そのワードチョイスにグッと来た。
“わらしべ長者”とは、1本のワラから物々交換をしていくことで、最終的には大金持ちになるという昔話。
「私もそうなりたいなぁ」と内心思いながら、ちょっと年上の男性の常連さんが「リサさん、“わらしべ長者”になったら最終的にどこにたどり着くんすか?」と言われたので、「えぇ〜、玉の輿?」とニヤニヤしながらフザケて返答した。
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まあ、そんな冗談はさておき、私はありがたいことに持ち物の8割近くが貰いもので成り立っている。
「意外!」と驚かれるのだが、放っておくと服装に関しては特に無頓着でこだわりがない。冬場はオシャレな場所に行かない限り、基本はスウェットの2パターンを交互に着ているほど。
夏場の服のほとんどはアパレル店員の友達やトレンドに敏感な妹に「私に似合う服を教えて〜」と頼むと、来シーズンまで着こなせるコーディネートを組んでくれるので、それをそのまま購入するのだ。
そんな私が唯一、一目惚れして購入したワンピースがある。
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大学3年生の頃。福岡から上京したおのぼりさんの私は、渋谷→原宿→表参道を地図なしで闊歩できるほど都内を出歩き回っていた。
そんなある日、SHIBUYA109をなんとなく見ていると、1着のワンピースが目についた。
ノースリーブ部分にフリルが付いた「黒のサマーニット」と、切り返しでスカートが組み合わされたオシャレなワンピース。ワンピース部分は、スウェード素材のネイビー、イエローの2色が交互に構成されていた。「子ども用の傘みたいな感じ」と伝えればなんとなくイメージできるのではないだろうか。
言葉で表現できないが、このワンピースを一目見た時に「え、これ好き」と思ったのだ。
きっとあれは一目惚れで、「一目惚れって、『好きになった理由』はないものなんだろうなぁ」と振り返る。
しかし、ワンピースに1万円出すのは抵抗があった当時の私。「このお店、地元の福岡にも店舗があるし。福岡に帰った時にまた出会ったらご縁だから買おう」と決め、その日はうしろ髪引かれる思いで帰宅した。
その翌週くらいに実家に帰省するタイミングがあったので、SHIBUYA109にあったお店の福岡店に直行。
すると驚くことに、“一目惚れワンピース”が売られているではないか。しかもラスト1着。「これは買うしかない!」と思い、ワンピースを購入した。
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あれ以来、「好きになった理由」が全くない“一目惚れワンピース”には出会えていない。
あの時、カフェでフザケて「玉の輿に乗りたい」と言ってみたが、ものに限らず「理由のない“一目惚れ”をしてみたいなぁ」とぼんやり思う昼下がりである。