私は関西に住んでいるのだが、当然私の住む地域でも、コロナウイルスの影響は多大に出ている。また、関東に住まない多くの国民も日々、東京のコロナウイルス感染者数を注視している。

東京で1日の感染者数が1000人を越えた辺りからの展開は、異常に早かった。ほんの数日。あっという間に1日2000人以上が感染する様になり、再び緊急事態宣言が出されるとの報道もなされた。その辺りで私も「そろそろ関西でも緊急事態宣言が出そうだな」と、肌で感じた。

私は2児を抱える主婦であり、現在は妊婦でもある。もしも私がコロナウイルスに感染したとしたら、家族に与える影響は大きい。また当然、私自身もハイリスクな人間に分類されるだろう。妊婦の感染や胎児への影響に関するデータは、まだまだ少ない。

今後より一層街に出ることが難しくなる前にと、私は長男次男を幼稚園へ送った後、消毒グッズの入ったバッグを肩に掛けて、閑散とした平日のショッピングモールに1人繰り出した。

一目惚れした水色のワンピース。それは初めて買った女の子の服

「これが出産前最後かもしれない」と思いつつ、人がまばらなファストファッションブランドを無駄の無いルートで回遊する。

久々のベビー服エリア。春夏秋と長く着れそうな、上品な水色のピンストライプの、白い丸襟付きのワンピースを見つけた。一目惚れだった。私は「女の子なのかもしれないんだから」と心の中で小さく唱えながら、そのワンピースをそっと手に取った。私が初めて買う、女の子の服。

他にも新生児から使えるちいちゃなタイツの2足組、それから何とも気が早いものの、次の冬に着れそうなセーターを購入した(どちらとも石橋を叩いてユニセックス)。既にお兄ちゃん達が着ているセーターとお揃いの、狐の模様が編み込まれたデザインだ。これを着た3人が並んだら、可愛いだろうな。

そして旦那用のアウターも購入した(セールで)。自分用にも授乳期に使えそうな前ボタンのワンピースを購入した(セールで)。これを産後着こなすためにも、明日から体重制限を頑張りたい。今日はタピオカでも飲んでおくかと思ったけれど、マスクをはずす手間を考えてやめた。

「早く帰ってきて」という旦那と息子たちが待つ家に帰らなくては

スマホが振動したので確認すると、旦那からの電話だった。「今日早上がりで、もう家なんだけど。どこにいるの。早く帰ってきて」と。私の旦那はこういう時私に「ゆっくりしておいで」ではなく「早く帰ってきて」と言う。
相変わらず甘え上手だなぁと思いつつ電話を切ると、スマホ画面の上部に、案の定というか、予想通りのニュースが飛び込んできた。関西エリアでも緊急事態宣言の要請が決定したとの事だった。

私はその後スーパーに寄り、ホットケーキミックスとチョコシロップ、そして個包装された節分豆のバラエティーパックを買った(息子達と小袋ごと旦那鬼に投げつける予定)。
ついでに100均にも寄って、粘土や画用紙なども備蓄を買っておいた方がいいかもしれないなと思ったが、タイムリミットだ。これ以上ショッピングモールに長居は出来ない。息子達を幼稚園にお迎えに行って、家で待つ旦那にも温かい夕食を用意しなくては。

一寸先は真っ暗闇。今年ほど無病息災を祈ったことは未だかつてない

コロナウイルスさえなければ、こんなものは出産を控えた妊婦の、ありふれた平凡な1日だ。しかし現状「感染が怖い」「今後どうなるかわからない」という不安故に、行動が制限されている。ウイルスの変異種が国内で確認された今、先の事は誰にも分からない。一寸先は真っ暗闇だ。

コロナウイルスさえなければ、私も何度、そう思ったことか。最近では、「#緊急事態宣言でも楽しもう」というハッシュタグをTwitterで見かけた。もう私達に残されている楽しみは本当に、うちで踊る事位しか無いのかもしれない。では、踊り疲れた人はどうすればいいのか。幼稚園児とのお家遊びは、ほぼほぼ出尽くして、もうネタ切れだ。

成人式が中止や延期になったという市町村も多かった。我が家の息子の卒園式や入学式も、どうなるのか分からない。今年の七草粥ほど無病息災を祈って何かを食べた事は、未だかつて無い。

春先の私の出産やそれに伴う入院も、面会に制限がかかるのだろうか。次男の時は可能だった立ち会い出産はどうなるんだろう。私が入院する予定の産院では、もしも出産がもしもスムーズにいかなければ、地域の大病院に搬送される手筈になっているが、そこはコロナウイルス患者の受け入れ病院でもある。その事も私を一層不安にさせる。

春、水色のワンピースを着た女の子に出会える日を楽しみに

2度目の緊急事態宣言。私達の生活は変わらないと言い切る人も、画面の向こうでは見かける。しかし今、私達が出来る事、しなくてはならない事は恐らく、初心に帰る事なのだと思う。

自分や身近な人々の日常を、本当は変えたくないという正直な気持ちを認めつつも、医療従事者の方々や、リモートワークの出来ない消防や警察、介護や保育などに携わる方々への身体的、精神的負担をいかに減らせるか。そこを基準にして1人1人が冷静に行動を選択する事が、結果として社会の福祉を守り、誰かの大切な人を守る事にも繋がる。それはこれまでの1年間、私達が気付き、学んできた事ではなかったか。

私は妻や母として、自分や家族の体調とメンタルを保ちつつ、先の見えないこの状況で生き抜いていく。これは結構困難な事だけれど、適応するしかない、生存本能を呼び覚ますしかない。こんな経験値は欲しくなかったけれど、私達はみんな、間違いなく逞しくなっている。

だからこそ、初心に帰ろう。こんな嵐の中であっても、私達がそれぞれの生活背景に応じて、各々落ち着いて行動を選択したその先に、少しは凪いだ日々が待っていると信じて。

私は水色のワンピースを着た女の子に出会える春を楽しみに、数日後発令されるであろう関西エリアの緊急事態宣言の発令を、1人静かに飲み込む準備をしている。