高校1年の頃、隣のクラスにすごくかわいい子がいるという噂を聞いた。噂とともに聞いた名前も、女の子らしさと中性的な雰囲気が共存する、魅力的なもので、何も接点なんかないのに私はその子と仲良くなりたいと直感的に思った。その子(以後仮にA子とする)と親しいという同じクラスの男子に手伝ってもらって、私はA子に会いにいった。教室の前について初めてやっと、「会ったこともないのに仲良くなりたいだなんて変に思われるかも」と心配になった。

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やがて教室からA子が出てきた。もう5月には散ってしまったはずの桜が再び咲き誇ったような気がした。彼女は噂に聞いて想像していたそのままの姿だった。白くてさらりとしたきれいな肌、長くて日が当たると茶色く見える細く長い髪をひとつに結んでいる。すらっと長い脚が少し短いスカートから伸びている。長身で、背の低い私は、彼女の小さな顔を見るとき自然と上を向くことになる。閉じている小さな口は少しわがままっぽく結ばれている。無表情の時の彼女は「気分じゃないから触らないで」という感じの小猫みたいだった。

仲介役の男子に促されて私が挨拶をすると、A子は微笑んで「凛ちゃん、よろしくね」と言った。笑うと目がなくなってもっと可愛かった。大げさではなく本当に花が咲いたような笑顔だった。声も鈴が鳴るような声で、私は鼻がよくないから分からないけど、多分近づいたら柔軟剤のいい匂いがするんだろう。

「私と仲良くなりたいって、すごく嬉しい」

A子に一度会ったら、きっと誰だって好きになってしまう気がした。現に私もドキドキしていたし、A子を紹介してくれた男子も、A子のことが好きだった。

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それから私はA子と仲良くなった。部活のない日はいつも一緒に帰った。恋多きA子の話を聞いたり、私の恋愛相談に乗ってもらったりした。外見が清純そのものなA子のアドバイスは意外にも大胆で、まともに恋愛をしたことのない私にとってはとても真似できるものではなかった。多分、昔かなり年上の人に片思いをしたことがあったから大人びた恋愛観を持っているんだろう。

「凛もメイクしてみたら?」

私の日焼けした素肌白い手が触れる。A子の瞼には控えめなラメがちらついていて、唇は彼女の雰囲気に合う桜色のリップグロスで彩られていた。

「詳しくないけど……やってみようかな」

元カレを突然「捨て」て違う人と新しく付き合い始めてからA子はますますかわいくなっていった(ちなみに私にA子を紹介した男子は失恋していた)。

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A子と友だちでいられた時間はそう長くなかった。知り合って半年も経たずに私たちは仲違いした。付き合ってから3カ月ほどで「捨て」られた彼氏が私に言った言葉がすべてだと思う。

「A子は難しいから」

私は彼女の難しさについていけなかった。学校帰りにタピオカ屋でとりとめのない話をしていたはずなのに、急に機嫌を損ねて帰ってしまった。何が悪かったのかもわからないまま、それからは連絡もとれず、A子との関係は完全に終わってしまった。

同じ学校だったから、A子との縁が切れても噂だけは届いてきた。2人目の彼が「捨て」られてからも色々な人と短期間で付き合い、3年生になってようやく、1人の人に落ち着いた、らしい。

数年後、共通の友だちからA子の近況を聞いた。見せられた写真の中の彼女は、長かった髪を肩までバッサリと切り、あの頃と同じ薄めのメイクで、あの時と同じ春の陽だまりのような笑顔で微笑んでいた。今では彼女より濃いメイクの私は、あの頃と変わらずかわいい彼女を見て、ひとり、胸がギュッとなった。