一人暮らししないの?必ず聞かれる問いの答えは、家族が好きだから

二十六歳、実家暮らし。
そう言うと必ずと言っていいほど尋ねられる。一人暮らしはしないの、と。この問いの答えには、いつも困っている。
私は一人っ子で、つまり実家暮らしという今の状況は一つの家に大人が三人暮らしていると言う現実を指す。それぞれが好きなことをし、仕事をし、休みが合えばたまに一緒に行動したり、或いはしない。ただそれだけの事実。
仲も別に悪くはないし、離れることに理由を見出せないのが本音なのだが、それを一から人に説明するのは面倒くさい。
「一人暮らしはしといた方がいいよ」
必ずと言っていいほど言われるこの台詞の真意も、未だ聞けずにいる私だ。
「歳、取るとな、家族と一緒に居たいんだよ」
この間のこと、テレビを見ていた父親が不意にそう言った。家族。つまりは私の母と私。父親の言う家族の範疇はここまでである。
そういえば春には桜を一緒に見に行ったし、ゴールデンウィークには偶然合った休みにネモフィラを見に行った。もう殆ど見頃は過ぎていたけれど、その後みんなでご飯を食べに行った。
最近も父親と二人で休みの日にはラーメン屋に行ったし、母親の晩酌にはいつも付き合っている。あ、そういえばその前には私の転職祝いだと言ってしゃぶしゃぶ屋に家族で行ったっけ。結局支払いは私だったけれど、その前には回転寿司にも行った。
ここまで思い出して、なーんだ、と思った。
私は家族のことが結局好きなんだ。だから一緒に居たいと思うんだ、と。
思い返せば他にも色々あった。夏には野球観戦をしに家族でドームへ行くし、そのついでにホテルに一泊する。父親にボーナスが出れば家族忘年会だと言って、半年に一度は焼肉を力一杯食べる。
実家があるのはカエルの大合唱のうるさいど田舎だけれど、私が好きなのは実家じゃなくて家族なんだ。
一人暮らしをしている友達に、聞いてみたことがある。
「一人で暮らすって、実際どんな感じなの」
小学校時代からの友達は、少し考えて教えてくれた。
「自由だよ、基本は。でも自分を律する必要のある自由。そして家族のありがたみを知っていくよね」
確かに。想像してみた。行ってきますとただいまに返答はなく、当たり前だが家に自分以外の人間はいない。その代わり何をするにも制限はない。お風呂の順番を待つこともないし、誰かにおやすみを告げることもない。
友達は週末実家へと帰ることが多いと言う。シフト制で働く私にはピンと来なかったが、週休二日制の人はそうして過ごしている一人暮らしの人もいることを教えてもらった。
友達も家族仲が良い。だからこそだろうか、週末の時間は貴重なのだと言う。そうしてまた、元の一人暮らしに戻っていく。この友達と私は同じ時期に転職をして、ライフスタイルもガラリと変わったのである。
世間の目、という意見もあるだろう。こんな年になって、実家で暮らしているのか。そう思う方もいるかもしれない。個人的には他の人の意見は気にしたことがあまりないため、これは理由にはあまりなり得ないが、中には親の方から一人で暮らしなさい、と告げられるご家庭もあるだろう。
自立の後押しをしてくれているのは、それはそれで素晴らしいことと思う。私が一人っ子だということも、これには関係するだろう。
家庭の中は常にブラックボックスであり、この世の中で最も謎に包まれた部分だと考えることもできる。つまり百の家庭があれば百通りの考えがあるように、多少似通ったところがあるにしてもそれぞれ考え方は別だということだ。柔らかく捉えるなら、みんな違ってみんないい、ということになるだろう。
一人暮らしと実家暮らし、どちらにも良いところがあるのだ。それならば私は今度からこう言えばいいのではないか。
「私は家族が好きだから、実家暮らしをしています」胸を張って、そう言おうと思う。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。