出会った瞬間、一言二言言葉を交わしただけなのに、一目惚れして、好きになった。

なんとなく、この人と付き合うだろうとピンと思いついたことを今でも鮮明に覚えている。そして彼から発される香りも好きだった。今でも道端で知らない人でも同じ匂いがすると、振り返って彼ではないかと思ってしまう。

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数年前の春、私は大学に入学した。

夢を追いかけて頑張って勉強しようと思っていた矢先のことだった。そんな時に私の目の前に現れた彼。一目惚れしたはずなのに、どこかなぜか「あ、でもこの人と付き合うとまずいことになる」と初対面で思った人だった。

あの感覚は科学的に証明できるのか今でもよく分からない。正直よく分からなすぎて、直感としか今まで言えなかった。

それから一緒にグループで勉強した。グループで勉強する仲になったし、告白したら気まずくなりそうだなと思って告白はしなかった。

それに夢を追いかけたかった。私にとって恋愛に溺れている暇はなかったのだ。でも好きだったし、意識していた。

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そして出会って半年くらい経ってから、私は彼に告白された。でも保留した、それは最初に感じた直感からだった。なんとなくこの人と付き合ってはいけないそう感じた初対面の直感からだった。

しかしそこから大学に通い、毎日顔を合わせる日々、私の心に影がかかっていった。その影を強めたのはちょうど大好きだった祖母が突然旅立ったことだ。かなり高齢だったのもあり、全く予想していなかった訳ではないが、あまりの突然さに心の中に嵐が巻き起こっていた。

色々な人に助けを求めた。その中で、祖母が旅立ったことはゆっくり時間をかけて受け入れていかないといけない、でも一旦こちらから告白して行動してみようと思うことができた。亡くなったおばあちゃんに背中を押されているような予感もした。

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そこから一年ほどお付き合いをした。その間には嬉しいことも悲しいこともあった。

初めての経験もした。人を好きになるとはこういうことなのかと、二十何年生きてきたのに初めて知った。一目惚れして出会った彼に溺れていたのかもしれない。私よりもたくさんのことを知っている彼と話すのはとても楽しかった。

ふとあの期間を思い出すこともある。自分から離れることを決めたのに、後悔することもある。いっそ出会わなければ私は夢を叶えることができたのか、と思ってしまうこともない訳ではない。

今はどこで何をしているのか分からないけど、と思ってこのエッセイを書きながら、名前を検索してしまった。でも私が恋して愛したのはあの時の貴方で今の貴方ではないからね。そう分かっているけど、どこか興味を持ってしまうこともある。

きっとどこかで幸せに生きているのかな。世界で一番好きになった人でした、幸せになってね。私はあなたとの思い出を胸に生きていくよ。

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初一目惚れって不思議だ。「瞬間で恋に落ちる」とか恋愛ソングを聞いていながら、現実味がなくてちゃんちゃらおかしいなとまで、正直に言えば私はそう思っていた。だからこそ自分が一目惚れするとは考えていなかった。

でもあの一目惚れで私はたくさんの経験ができた。あの出会いは偶然ではなく、必然だったと思う。そう思いながらPCを閉じようとしている。今の私の心の中はとてもすっきりしている。本当にありがとう。