昔は、辛い刺激がある食べ物が苦手でした。

しかし、社会人になり日頃の生活にストレスを感じるようになってくると、却ってその刺激が私の疲れを解消してくれるようになったのです。
仕事をしている時に感じる対人関係のストレス、納期が上手くいかず取引先に謝罪をしなければならない時、普段の生活でストレスはふつふつと溜まっていきますが、そんな時に家に帰ってから食べる辛い風味のカップ麺は最早麻薬ともいえる格別さがありました。

最初は辛すぎて中々箸が進まないものでも、慣れてしまうとそれくらいは何のその、逆にそれ以上の刺激が欲しくなってしまうのですよね。
かといって調子に乗って食べすぎるとその時は良くとも、少しするとお尻がとても痛くなってしまいトイレとお友達になってしまうという悲劇が起こります。
毎回同じ事を繰り返しつつも私はその辛さを摂取する事でしか見い出せない魅力にハマっていきました。

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ワサビ、山椒、一味唐辛子、カラシと大体のものは普通に食べる事ができましたが、しかし、私には唯一受け付けられないものがあったのです。
それは、タバスコです。単体で見るとそこまで独特なものでもないのですが、どうしてこれだけ受け付ける事ができなかったのか。

それは、私の学生時代のあるトラウマが原因でした。

高校生の時、友達とカラオケに行った際、ドリンクバーと共にポテト、唐揚げといった物を注文したのですが、その時に友人の一人がメニュー表を見てあ、これも頼もうよ!と嬉々として呟いたのでした。
それは、ロシアンたこ焼き。全八個のたこ焼きのうち、七個は何の変哲もない普通のたこが入ったたこ焼きですが、一つだけ激辛のタバスコ入の悪く言えば外れの物が含まれている……。
私はその商品説明を見た際、うわ、そんなの頼むのは嫌だな……と思ったのですが、周りの盛り上がりに対してその意見を述べる事ができず……。
あれよあれよという間にそのたこ焼きは他の商品と共に運ばれてきて、私たちは謎のゲームをせざるを得ない状況になってしまったのです。

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とはいえ、その時は四人であったため自分がそのタバスコ入のたこ焼きを引き当ててしまう確率はかなり低いであろうと思っていました。
まさか自分が、そんな物に当たるはずがない……そう思い割り箸でつまんだたこ焼きを口に入れた瞬間、私の舌はとんでもない異変を察知したのでした。
とてもではないが、普通のたこ焼きを食べた時には到底感じ取れないような不快感が口の中に拡がり、それと同時に何ともいえないツーンとした刺激臭、辛味を舌が感知したのです。

「何これまずっ!!!」

その瞬間、私は思いっきり口の中の物を部屋の中にあったティッシュに吐き出しました。
その姿を見て、目を丸くする一同。
「マジか、当たっちゃったんだ!」
「どう?やっぱ辛い??」
「私じゃなくて良かった〜〜笑」
皆おもしろおかしく私の姿を眺めていましたが、正直自分は目の前の状況に必死になるあまり、周りに対し皆が望むような罰ゲームに当たったコミカルな反応をする事ができませんでした。

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正直、私はそれまでタバスコという物を食した事はなかったのですが、この時に感じた衝撃が強すぎてそれ以降も食べた事はないです。
皆洋食屋に行くと頼んだピザやパスタにかけたりして辛さを楽しんだりしていますが、私はこの時にタバスコのイメージが悪いものになりすぎてしまったため、現時点では中々怖くて気軽に試そうという気持ちになる事ができません。

よく、バラエティ番組のドッキリで芸人がわさびがパンパンに入った寿司を食べさせられる、といった企画を目にする事がありますが、一度似たような経験をした事がある身から言うと、その様な事をしたらトラウマになり、もうワサビ、いや下手したら寿司自体を美味しく食す事ができなくなってしまうのではないかと懸念に思ってしまいます。

もうそろそろ、一回普通にタバスコを試してみるのもいいのかな、とも思うのですがやはり少々抵抗がありますね。
いくら学生のノリだったとはいえど、一度与えたトラウマが人に与える影響は想像を超えるものがある、という事を身をもって体験した出来事でした。