六年ぶりのボブ。髪型ひとつでこんなにも気持ちが変わるなんて

失恋したら髪をバッサリ切る――。そういうのに、あこがれていた。けれど、実際に失恋しても、「いや、こんなことで私の大事な髪の毛を切るなんてもったいない」と思ってしまい、結局髪をバッサリ切る機会は、ついぞ訪れなかった。
そもそも、なんで別れた相手のために髪を切ってやらなきゃいけないのだ。自分が気に入っていて、一番かわいいと思えると思う髪の長さを、私は死守したい。それに、髪を切ったら未練も断ち切れる、なんて都合のいい話は存在しないのだ。というわけで、そういう行動にあこがれつつも、私は自分の髪の長さを守り続けていた。
ところがある日、そんな私の“長髪命”な主義を揺るがす事件が起きた。きっかけは、彼氏のなんてことない一言だった。
「ボブ、見てみたい。絶対似合うと思うよ」
おいおい、ボブって。私にとってボブは、かなりハードルが高い髪型なのだ。実は中学生の頃、一度だけボブにしてみたことがあった。でもそのとき、あまりの似合わなさに絶望し、「もう二度とボブなんてしない」と固く心に誓っていたのだ。それ以来ずっとロングを貫き、長すぎるくらいの髪の毛でないと落ち着かなくなっていた。
最初はもちろん反発した。「じゃあ、今までの私はかわいくなかったってこと?」なんて詰め寄ったりもした。でも彼は、「いや、かわいいからどんな髪型も似合うんだろうなと思って」とサラッと言ってのけた。なるほど、私の扱い方をよく分かっている。
それから少しずつ、髪の毛の長さに対する執着が薄れていった。髪の毛は、たしかに私にとって大事な“財産”だった。でも同時に、新しい自分にも出会ってみたいという気持ちが膨らんでいった。そしてある日、ついに切ることを決心した。
実に六年ぶりのボブ。いざ切ってみると、なんだか新鮮で、自分が自分じゃないような気がした。例のトラウマもあって、「やっぱり似合ってないかも……」という自信のなさがぬぐえない。それでもその日は、彼氏と会う約束があった。どんな反応をするかな、驚くかな、何て言われるかな――と、ドキドキしながら待ち合わせ場所へ向かった。
結果、彼氏は大喜びしてくれた。「かわいい」と、いつもよりたくさん言ってくれた。
結局私は、この一言が欲しかったのだ。彼氏の「かわいい」のために髪まで切ってしまうなんて、と自分の単純さにちょっと呆れた。でも、髪に対するこだわりを手放せたことで、どんどん変わっていく自分が楽しかった。
「彼氏の好みに合わせて、系統を変えるような女の人にはなりたくない」なんて思っていたのに、それによって新しい自分に出会えるなら、それはそれでアリかも――なんて思っている自分がいる。現金な奴だ。
新しい自分に出会わせてくれた彼に感謝しつつ、私はこれからも、自分の心の赴くままに生きていきたい。たとえ誰かの言葉に背中を押される形だったとしても、「やってみたい」と思えたのなら、それは自分の意思なのだ。
昔の私は、髪型ひとつでこんなにも気持ちが変わるなんて知らなかった。でも今は、変わっていくことが楽しくて気持ちのいいことだと知っている。これからも、変わることを恐れずに、自分の“好き”や“かわいい”を更新しながら生きていけたらいいな、と思っている。
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