「ショート、かわいいね」。

髪型のことである。今までで1番と言っていいほどにバッサリ髪を切った、大学1年の10月。ボブくらいならやったことがあるけれど、顎より上まで切ったのは初めて。ちょうど、髪を切った次の日に友達と写真を撮る機会があって、スマホのカメラロールにそのときの写真が残っているのだが、心なしか恥ずかしそうな顔をした私が写っている。理由は明らかだ。友達から髪型を褒められ、冒頭の言葉をかけられたのだ。

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髪を切ったのは、なんだか最近モヤモヤするな、さっぱりして気分を入れ替えたいなと思ったのがきっかけだった。決して、失恋したから切ったのではない。そもそも、失恋の前に恋をしていない。

髪が1センチと伸びないうちに、久しぶりに中学時代の恩師に会った。彼に開口一番、「髪、前の方が良かったよ」と言われて、一瞬、目の前の景色から色がなくなったと思うくらいの衝撃を受けた。そのあとすぐ、冗談だよ、というニュアンスの言葉を発して笑っていた彼を見て、私もマスクの中で笑った。笑えていたはず。

1つ、誤解のないようにしておきたいのだが、彼に悪気はない。他の人からしたら「まずいのでは?」と思うようなことだったとしても、そういうことを言われたくらいで壊れるような関係性ではないということだ。それだけは分かっておいていただきたい。

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だとしても、である。親しい彼に言われてしまったのは、かなりショックを受けた。だって、友達から褒められて浮かれていたのだから。なんとかこの髪型を、そして髪を切ろうと決めた自分自身を肯定して欲しくて、家族に感想を求めた。すると、どうでしょう。家族はみんな口を揃えて「かわいいよ、似合ってるよ」と言うではありませんか。

いよいよ、どちらなのか分からなくなってしまった。もちろん、似合っていて欲しいけれど、それは私の願望であって。残念ながら、事実とは言えない。どこに行くにも誰かに見られるのだから、やはり周りから見て似合っている髪型がいい。

家族や友達から「ショートが似合ってる」と言われ、恩師から遠回しに「似合わない」と言われた私。今、一体どんな髪型をしているか、予想してみて欲しい。自分の髪型について真反対の感想をもらった私が、どうしたのか。

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正解発表。あれから、約2年。私は今、ロングヘアで生活している。本当は髪を下ろして大学に行きたいのだが、湿気と暑さに負けて、ローポニーテールで過ごしている。ちなみに、アレンジはなしで髪ゴムは100円ショップのおしゃれなものを愛用中。ゴムにビーズがついていて、かわいすぎずにちょこっと上品な感じなのだ。

予想は当たっていただろうか。結局、家族よりも友達よりも、恩師の意見を優先した。たった1人の意見だが、たかが1人、されど1人。私は「前の方が良かった」という意見をなかったことにはできなかった。

ずっと、髪を伸ばしては切る、を繰り返して、胸辺りまでの長さをキープしている。しかし最近、またバッサリ切りたいという衝動に駆られることがある。以前のように、今なんとなくモヤモヤしているからだ。どうやら私は、モヤモヤすると髪を切りたくなるらしい。

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髪を切ろうかなと思うと、脳裏に浮かぶのは恩師の言葉。どうしたものか。いや、似合っていなくても自分が気に入っていればいいのではないか。他人の意見を気にしないで、自分の好きな髪型にすればいいのではないか、とも思う。

次に髪を切るときは、あのときと同じくらい短くしよう。そして、ショートが似合う女になってみせる。似合わないなら似合わないなりに、似合うような努力をしよう。
でも、やはり似合わないかもしれないと私の中のネガティブが顔を出すので、まだしばらくはショートにできそうにない。