一目惚れほど決定的な出会いはない。鞄、イヤリング、靴……一目見た瞬間心を奪われたら、もう手に入れるまで心から離れない。だが、そうやって手に入れたからこそ、愛情を持って大切に扱うことができるのだと思う。

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中学生の時、初めて腕時計を買ってもらった。電車通学の子もいるため、学校に付けて行っていいと聞いたからだ。私は自転車通学だったが、時刻がすぐ分かると便利だということで買ってもらうことになった。

初めに訪れた店で、その出会いは起こった。ショーケースの中で一際輝く、小さな腕時計を見つけたのだ。金属製のチェーンのような形のベルトは、真ん中が銀色で周りが金色。文字盤はシェルのようなオーロラ色で、複雑な光を放っていた。そして何より、星の形にカットガラスが入っていた。光が当たると星の形が文字盤に映し出されるんですよ、という店員さんの素敵すぎる言葉を聞いた私はすっかり虜になって、「お父さん、これがいい!」と言った。

父は、「他のも見てみなさい、もっといいのがあるかもよ」と言い、私を他の店に連れて行った。それでも、これに勝るものを見つけることはできなかった。逆に、他の時計を見れば見るほど星型のカットガラスが頭にちらついて仕方がない。

「やっぱり、最初のがいい」

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そうして買ってもらった腕時計は、中学、高校と6年間毎日身につけていた。ソーラー式だったので電池が切れることもなく、いつも一緒だった。時刻を確認する度に星型が浮かび上がる文字盤が、本当にお気に入りだった。テストが始まる直前には秒針を見つめて気持ちを落ち着けるのがルーティンで、これは大学受験当日まで続いた。新しいのを買ってあげようか、と父から何度か言われたが、断った。この腕時計は、私の左手首で光るかけがえのない相棒だったのだ。

しかし、どれだけ大事に使っても別れの時は来る。私が高校を卒業した頃から、蓄電池が劣化したのか時刻がずれることが増えてきた。年々増えてきた文字盤やベルトの細かい傷は気にしていなかったが、さすがに正しい時刻が分からないのは困る。修理に出そうかとも思ったが難しいようだったし、同じものを買おうかとも思ったがもう廃番になったようで叶わなかった。

渋々新しいものを探しに、時計屋さんに行った。できるだけ似たものにしようと思っていたが、なかなかピンと来るものがない。一般的なはずの平らな文字盤のガラスがちょっと味気ないものに思えるほどだった。結局お迎えしたのはBABY-Gの紺色。系統が違いすぎて我ながら笑えるが、何故かこれに惹かれたのだった。大学には実習などもあるので丈夫な方がいいかもしれない、と思ったのも理由の1つではある。だが、やっぱり華奢で可愛らしい時計はあの星型のカットガラスのものでなければダメらしかった。

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ああ、一目惚れは罪深い。別れた後に面影を探しても、代わりはないと思い知られるだけだ。だからこそ直感でビビっと来たものを選んで、大切に使いたい。