インドカレー屋は私の駆け込み寺。猛烈な衝動の先に待つ優しさ

世界は美味しい食べ物で溢れている。グルメ情報を目にして腹の音が鳴ると、「あぁ、生き物やってんな」と思う。
食と生き物は切っても切れない関係だ。草にしろ肉にしろ、何かを食べているという行為に変わりはない。
食べ物にはすべからく味がある。甘味、塩味、苦味、辛味など種々あるが、特に甘味と辛味が私の舌を魅了してやまない。
甘味は、とりあえず甘かったらなんでも好きだ。和菓子洋菓子夢見がち、お茶菓子生菓子狂い咲きといった具合で、何でもありがたく頂く。
野菜や果物の自然な甘味から、砂糖ががっつり入った人工的な甘味まですべからく好きで、甘いものを食べている時は幸せな気持ちになる。
対して、辛味にはこだわりがある。ハバネロのように辛すぎて口内を破壊しそうなレベルの辛味は好きではない。カップラーメンも辛いものがたくさん売っているが、辛さに全振りしていてスープの味がよく分からないから微妙だと思う。
私の好きな辛さは、激辛ではない。大・大・大好きなインドカレー屋に行く時も、「辛さは?」と店員さんに聞かれると「中辛で」と言う。
私が辛いものを求める時というのは、基本的に「インドカレーが食べたい!」という猛烈な衝動に駆られた時かもしれない。インドカレーを最後の晩餐に選んでしまう可能性もあるほどに、好物だ。
いつも決まって頼むのは、サグチキンカレー(中辛)とチーズナン。サグチキンというのはほうれん草チキンという意味で、スープが緑色だ。そこにゴロゴロとした大きなチキンが3〜4個入っている。
トロトロの焼き立てチーズナンにつけて食べると、適度な辛味とまろやかなチーズとのハーモニーに魅せられて、もう天にも昇りそうな心持ちになる。
インドカレーも好きだが、インドカレー屋という店自体も好きだ。店主はインド人ではなくネパール人が多数を占めているようだが、思いやりのある優しい人が多い。私は心が傷むようなことがあると駆け込む。もはや駆け込み寺に等しい。
食べ終わったところを見計らって、「おかわりしないの?」と聞いてくれるし、マンゴーラッシーをサービスしてくれる場合もある。
あと、テレビでひっきりなしにインド映画が流れているのも異文化を感じて良い。
悩みなんか全部吹き飛ばすような激しい情熱的求愛ダンスを観ながら、食欲の沼にどっぷりと浸かるのは最高以外のナンでもない。
8年間、数ヶ月に1回の頻度で行っている。習い事や塾は大して続かなかった私だが、インドカレー屋には通い続けている。無芸大食なんて言わないで……。
思うに、私は辛味自体が好きなのではない。テレビによく出ている激辛マニアのように、ヒーヒー言いながら滝汗を流すという趣味はない。
辛味に付随するものが好きなのだと思う。それはインドカレー屋の店員さんであり、求愛ダンスであり、異文化でもある。
わさびやコチュジャン、胡椒にも言えることだが、その背景にある歴史や人々の営みを想起させるような文脈が、辛さの中にギュッと詰まっているような気がする。
まあそんなこと言い出したら他の味覚も同じかもしれないが、何事にも大袈裟な私の世迷言なので許してほしい。
梅雨入りしたというのに、夏真っ盛りのようなこの頃。マイナスなニュースが目に入ることが多くなり、心がしんどいのでそろそろインドカレーを食べに行こうかしらん。あなたもいかが?
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