私だけの記念日は、腕時計を付けた日。
大学2年生のとき、初めて時計屋さんで腕時計を買った。それまでは雑貨屋さんの安っぽい腕時計を付けていたから、少しだけ大人になれた気分だった。

◎          ◎

買ったというより、当時付き合っていた彼に買ってもらったクリスマスプレゼントだったのだが、私は当時大しておしゃれもせず、ほぼすっぴんで大学に通っていたから、腕時計だけいいものを付けてもそれだけ浮いてしまっているような気がして、腕時計に見合うようにできるだけおしゃれやメイクを頑張った。
彼とのペアウォッチは、大学生らしいブレスレットのようなキラキラしたデザインで、当時の私は嬉しくて毎日眺めてはクロスで磨いていたし、きちんとケースに仕舞って埃がつかないようにした。

しばらくして就活が始まり、就職も決まったころに、内定先の方に時計について指摘があった。そのようなカジュアルな腕時計は新人のうちはやめておいたほうがいい、付けるならもう少し大人しめのデザインに買い替えたほうがいいと。
確かにデザインはカジュアルめだけれど、腕時計でそんなに言われるようなことなんだろうか?と疑問に思いつつ、買い替えはせずに内定先に付けていくのはやめた。なんとなく、指摘されてから気になるようになり、普段もつけないことが多くなって、腕時計はクローゼットの奥に仕舞った。

◎          ◎

就職して2年が経ったころ、周りの同僚を見るとおしゃれな腕時計をつけていたので、私もそろそろあの腕時計をつけてもいいタイミングかなと思い、クローゼットから腕時計を出して腕に付け、鏡の前に立ってみた。
すると、服装、メイクに腕時計だけが悪い意味で浮いていた。当時はお気に入りであんなに大事にしていたのに、キラキラしたデザインが邪魔をして、似合わなくなっていた。
もうこの腕時計は付けられない。これに合う自分には戻れない。大学生のあの時の自分だからこそ似合った腕時計なんだと思い、なんだか寂しくなって、またクローゼットに仕舞った。

特に腕時計とは関係ないが、それからしばらくして彼とも別れ、仕事に熱中する日々が続いた。
そして先日、休みの日に時計屋さんにて、店員さんに勧められた腕時計を付けてみると、女性らしい華奢なデザインで、仕事でもプライベートでも使えそうな素敵な腕時計だった。よくお似合いですよと店員さんに言われたことで、また一歩大人になった気がして、購入した。最初に時計屋さんで購入したときの高揚感を、また味わうことができた。
クローゼットに仕舞っていた腕時計は、親戚の女の子が欲しがったのであげた。

◎          ◎

腕時計に限らず、服装もメイクも、似合わない時が来るかもしれない。年は取るし体型だって変わる。今の自分をどうやって楽しむかが大切なんだと思う。普通に過ごしているだけでも、変わろうと頑張ったときも、変わらず人は変わり続ける。
私に今の腕時計が似合わない日がまた来るかもしれないけど、そのときは落胆せず、私が変わった証拠なんだと思えるだろう。
私だけの記念日は、今の自分にしか付けられない腕時計を付けた日だ。