近くなり過ぎていた家族と距離をとるという経験が、私を成長させてくれた

高校3年生の留学。よく反抗期は、自立するために必要な過程、というようなことを言われるけれど、やっぱり自分も家族にとっても気持ちがいいものではない。
家族の形や関係性は十人十色。どの家族がいいとか悪いとか、じゃなくて。別に特別仲が良くなくても、自分たちの中で心地のよい距離感で、時に支えられればいいのだと思う。でも、子供のうちは、特に思春期なんかは、家族との関係性に悩んだりする。周囲と比較して、自分自身のことでさえも沢山気になってくるのに、周囲から家族への目線が、すごく気になったりする。それが気にならなくなるのは、ある程度大人になってからなのかもしれない。
私の場合は、特別裕福というわけではないけれど、小さい頃から習い事も旅行も、不自由なくさせてくれて比較的恵まれた環境、家族だったと思う。それでも、きょうだいとの関係性(いじられたり、比較されたり)とか、同級生の親と比べると少し高齢な両親とか、休日に家族といるのを見られることへの抵抗感とか、人並みに悩みはあった。
反抗期もあるし、単純に父に対する日々の不満が、悶々と溢れてしまって、強い口調でぶつける日々。仕事に家事に多忙を極める母もピリピリとしていることが多かった。
無性にイライラして、時に離れて暮らしたいとか、家から出ていってしまいたいとさえ思うこともあった。そこに上手くいっていない高校生活が重なり、高校生にして早くも人生に対して諦めのような気持ちすら抱いていたかもしれない。
そんな時に舞い込んできた留学の話。学校の制度にもあるオーストラリアへの約2週間の短期留学ではない。およそ1年間の長期留学。文化も、食事も、言葉も何もかも違う海外で1年間も、しかもホストファミリーのもとで1人という生活に普通の感覚であれば、不安や心配、恐怖が勝るだろうか。私の場合は、この生活を変えるチャンスだと思った。この機会を逃してしまったら、ダメだと強く感じた。(別に周囲に何かされたとかでもないのに) 見返してやりたい、他の人がやっていないことをしたいそんな邪な気持ちもあった。
そうして試験や面接を受けて、無事に留学が決まると、先生の提案でクラスメイトの中で報告をした。誇らしい気持ちと、もう後戻りはできないぞという緊張感と。2年の学期が終わる頃、友人から留学頑張ってきてねと色紙やプレゼントをもらった。高校生活への不満ばかりが頭の中を占領していて、いつしか周囲を敵にして復讐だと言わんばかりに膨らんでしまっていた想いがしぼんでいくのを感じた。あれ、私結構恵まれていたのかな、と感謝と少しばかりの後悔が心に滲んだ。
そして、家族。もともと自身も海外へ興味があり、子供に対しても海外へ行ってきてもいいよと積極的だった母が、留学に反対するはずもなく大賛成。むしろ私よりも、意気込んでいたように思う。初めての留学手続きに四苦八苦しながらも進めていく母。おかげで、私は留学に行くまでに私自身が何か特別な手続きや準備をした記憶がない。それが良いかどうかは置いておいて。父へも、留学への気持ちが固まった後に報告した。留学に行きたいというよりも、行くからと、もう決定事項だと言わんばかりに。父は弱々しくも否定的だったけど。
約1年間の留学の間、連絡が取れないと心配だからと、テレビ電話をするだろうと買ってもらったノートパソコン。Facebookのメッセージなどでやりとりはするものの、結局帰国するまでに、一度もテレビ電話をすることはなかった。
正直、留学をしている間、日本食とか日本の生活が恋しくなることはあっても、ホームシックにはならなかった。それほど、留学生活が自分にマッチしていて楽しんでいたのだと思う。全く知らない、全てが新しい環境での生活は、大変で難しいこともあったけれど、家族の干渉がないということも大きかった。刺激的で、自由だった。
帰国すると、なんだか自分の中の、家族への嫌悪や不満、高校生活への苛立ちがずっと過去のようなものに感じられて、気持ちが軽くなった気がしていた。これが少し大人になったということなのだろうか。
もちろん今でも、イラつくこともあるし上手くいくことばかりではない。それでも、私にとって、家族にとっても、あの時間は必要だった。私にとっては、その機会がたまたま留学だっただけで、必ずしも留学である必要はない。ただ、慣れや不満のある現在地から遠く離れて、0から人の手を借りながら、生活をすることで、実は必要以上に近くなり過ぎていた家族や周囲との距離に気付き、物理的にも精神的にも距離をとるという経験は、 私を成長させてくれたように思う。
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