「今度の8月20日みんなで海行かない( ^○^ )?」

24歳の夏。グループLINEで地元の友達に誘われて海に行くことになった。
メンバーは男女それぞれ4人ずつの8人。

23歳あたりから同級生の結婚ラッシュ第一波がやってきて、成人式以降ほとんど会うことのなかった地元の友達と頻繁に飲みに行ったり遊びに行ったりすることが増えた。その中には私が12歳の頃好きだった男の子も含まれていた。

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小学6年生の時に初めて同じクラスになったサッカー部の彼。
クラスの中心にいて、足が速い子だった。よく忘れ物をして隣の席から教科書を見せてもらっていて、私も教科書を彼に見せた時におしゃべりや物の貸し借りをして少しずつ仲良くなって好きになった記憶がある。笑うといつも目がなくなるたれ目の笑顔がすごく私は好きだった。

2月14日に手作りチョコを同級生達にからかわれながら渡した日からお互い何だか気まずくて、そこからずっとぎくしゃくしたまま中学を卒業してそのまま私の中で時間が止まっていた彼。12歳だった当時の私の彼に対する「好き」の気持ちはそこから進むことも消えることも出来ず、うっすら心の隅でとどまりながら私は大人になった。

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久々に再会した時には当時の面影はほとんどなく、憧れていたストレートヘアは茶髪のパーマになり、似合わない髭を薄っすら生やしていてとても驚いた。だけど笑顔はそのままだった。当時のあのぎくしゃくが無かったかのように彼は普通に話しかけてくれて、最初は面食らったけど、いつの間にか私も普通に話せるようになっていた。

“昔好きだった人”
最初はそんな気持ちだった。
だけど飲み会が開催されて、彼と久々に話したりみんなでドライブに行ったりする回数を重ねるごとに、彼が仕事で集まりに参加できないことを知るとがっかりしたり、いつの間にか自分の目が彼のことを追いかけていることに気付いた。

12歳だった私は自分の気持ちは彼に伝えたけど、彼からお返しをもらった時に返事を聞く勇気が持てなかった。敢えて伝えない彼なりの優しさだったのかもしれないけど、後から周囲の友達から「両想いだったんじゃないの?」と言われていた彼を見た時に「もしちゃんと聞けていたら…」と思う気持ちが拭えなかった。

それから12年経った私はやっぱり彼のことが好きになってしまった。
せっかく大切な友達としての関係を築くことができたから気持ちを伝えない方がいいんじゃないか、と何度も思った。だけど、今度こそ自分の気持ちを伝えていい返事でもそうでなくても自分の気持ちをきちんと昇華させたいと思うようになった。

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そんな中で誘われた海。
彼からも「俺も行く!」と返事が来ていた。
水着なんて持ってなかったから急いで可愛いと思う水着を購入し、夏のヘアアレンジ特集なんかを調べたり、海に行く日まで10日も無いのに二の腕痩せのトレーニングに急に励んだりして当日を迎えた。

当日は快晴で、気持ちのいい天気だった。
普段と違う環境や水着に、最初こそ周りや彼の目を気にしてドキドキしていたけど、全員でバナナボートに乗ったり海に飛び込んだりはしゃいでいたらいつの間にかそんな気持ちもすっかり忘れていた。

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各々が写真を撮ったり浮き輪に浮かんで休憩したりする中、私は水分補給のために自分達のシートまで戻ってきた。するとそこに彼がやってきて、私の隣に座った。
先ほどまで落ち着いていた心臓が急にドキドキし始めた。

「おぅ、暑いなぁ」なんて言いながら隣であぐらをかいて座る彼。
目の前で浮き輪で優雅にくつろいでいる友達を眺めて一緒に笑ったり、みんなで乗ったバナナボートの話をしたり他愛ない話をしてたけど、どちらからともなく無言になった。

何を話そう、何を話そう、と頭の中でぐるぐる考えていたけど口から出たのは
「小学6年生の頃○○の事好きだったよ、ちなみに今も好きだなって思う」

私はハッとして口を押えたけどもう遅い。
彼は私を見て、「うん、知ってる」とたれ目をさらに下げて笑った。
私は頭が真っ白になって口から言葉が止まらない。
「えと、○○が私のこと友達だと思ってるのは分かってる。だけど、自分の気持ちをちゃんと伝えておきたくて…」
彼は優しく頷きながらつたない私の言葉を聞いてくれた。
彼からは、気持ちには答えられないけど友達として好きだし一緒に居て楽しいからこれからも仲良くしてほしい、と返事をもらえた。
私が話し終わった後、「伝えてくれてありがとう」と彼が私の目を見ながら伝えてくれた。いい返事じゃなかったけど、心はとてもすっきりした。

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その後も彼とは飲みに行ったり、遊園地に行ったりする日々が続いた。
あの海の日に思いがけずだったけど勇気を出して思いを伝えられ、彼から返事を聞くことが出来たから、12歳だった「好き」の気持ち、24歳の「好き」の気持ちも昇華することが出来た。数年前のあの頃の私の勇気を今の私がまるっと大切にしてあげたいと思う。