声の小ささをカバーするホイッスル。私なりの保育は認められなかった

子どもの頃から、声が小さいことがコンプレックスでした。
声が小さいというだけで大人しい性格だと決めつけられたり、「存在感がない」と言われたこともありました。
私は大学卒業後、子どもの頃から夢だった、幼稚園教諭として働いていました。
夢を叶えた幸せも束の間、すぐに現実を突きつけられました。
「声が小さすぎる」と毎日のように職員から注意を受けました。
他の先生たちは、一度大きな声を張り上げたら子どもたちに声が届きますが、私はそうではありませんでした。
子どもたちの元気な声にかき消されるたび、近くで声をかけたりホイッスルを使って工夫しました。
それでもいいと思っていました。私は私なりのやり方で保育を行うんだと張り切っていたんです。
しかし、私なりのやり方は許してはもらえず、大きい声が出せない私はやる気がない、向いていないとお叱りを受け、いつのまにか自分らしさを封印し、操り人形のように働くようになっていきました。
大きな声を出そうと、動画サイトでボイストレーニングのやり方を学んで練習したこともありました。
でも、私は生まれつき声帯が弱いようで、無理に大声を出し続けると、決まって声帯を痛めて病院通いを繰り返しました。
担当医から「忠告を無視して無理を続ければ声帯にポリープができて手術になる」と忠告され、私には声を使った仕事はできないんだと、絶望して泣きました。
誰かに相談したところで「そんなことで悩んでいるのか」と軽くあしらわれてしまいそうで、結局誰にも相談できないまま、幼稚園教諭を辞めました。
自分から幼稚園教諭免許を取られたら何も残らないと思っていた私は、大きな恐怖感に襲われました。
そんなときに、たまたま本屋で見つけた本に書いてあった「短所は長所に変えられる」という言葉に救われました。
私は、声が小さいということはもちろん、そのほかにもコンプレックスがたくさんありました。
とにかく自分に自信がもてなかったんです。
しかし、その本には、短所の裏側には必ず長所が隠れているから、短所をなくす努力をするのではなくて、活かす努力をするべきだと書いてありました。
その考え方に目から鱗が落ちたようで、コンプレックスの塊である私は、もしかすると長所だらけなのかもしれないと思いました。
それからの私は、徹底的にコンプレックスと向き合い、声が小さいからこそ、すぐに場になじむことができたり、雰囲気が柔らかく見えて話しかけやすいと思ってもらえるという長所を見つけました。
にぎやかな職場で子どもたちに大声を張ることは苦手でした。けれど、一人ひとりに声をかけると、その子の心にちゃんと届く。その瞬間こそが私の得意だと気づいたんです。
得意なことより苦手なことを仕事に選んでいたことに、退職してから初めて気が付きました。
そして、自分の得意なことを活かせる仕事がしたいと思いました。
今では、さらに自己分析を深めて、自分の得意な個別のコミュニケーションを活かし、主にキャリアカウンセリングやコーチングを仕事にしています。
個別でじっくり目の前の相手に向き合うことができる今の仕事は、無理に声を張り上げることもなく、私らしさを存分に活かすことができています。
コンプレックスに悩み、毎日のように一人で泣いていたころは本当に辛かったですが、あの頃があったからこそ、今の自分がいます。
たくさん悩み、向き合い、自分を信じてよかったです。
もし、過去の私のように自分のコンプレックスに悩んでいる方がいたら、自分を責めるのではなく、可能性を信じて向き合い続けてほしいと思います。
声が小さいことを責めるのではなく、その静けさの中にあるあなただけの強みを探してみてください。きっと思いがけない宝物が見つかるはずです。
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