「ばーか!って、言っちゃだめ?」
上野千鶴子さん「ミソジニーに対処するのは私たちの責任なの?」
あまりにも単純な答え。もうかれこれ半年くらい悩んでいた「性差別発言をしてくる人にどう返せばいいのかわからない」という問いは、「ばーか」の一言の前には呆気なく雲散霧消してしまうのだった。「ばーか」。なんてシンプルでパンチの効いた返答。
「え、だって、そしたら男の子なんて一人もいなくなるじゃないですか~」
濡れた目元にティッシュを当てながらそう返す。わたしはインタビューをしながらボロボロと泣いていた。かつて様々な人に言われた性差別発言や溜まっていた生きづらさのようなものが噴き出してしまっていたのだ。
「男への信頼ゼロ、ね(笑)」
「はい、ゼロですううう」
コミカルな会話をしているにも関わらず、わたしはやっぱり涙が止まらない。そっか、言い返してもよかったんだ。自分を責める必要なんてなかったんだ。あんなことを言う人たちが「ばーか」だった。ずっと飲み込んでもやもやしてたわたしも「ばーか」だった。
ちなみに男の子への信頼は、本当にほぼゼロである(これはわたしの中に潜む男性差別だと理解し、乗り越えようと努めている)。
いまだに心に刺さって抜けない「女の子は笑いをとっちゃだめだよ」「結婚できなきゃダメだよ」等の発言。会話にさりげなく混ざるセクハラ。ジェンダーの話をした途端に険しくなる表情。すべての男の子がそうではないとわかっているのだけど、どうにもこういう記憶ばかりが頭に残ってしまうのだ。
そういうことを言われてしまったのはおそらくわたしが誰とも打ち解けやすい性格をしているからであるが、だからこそ、その発言は彼らの本音であるということで、そこに性差別の根深さを垣間見てしまう。でも、どんなに相手がばかだって、やっぱり人間として好きな面がある限りは、こちらも好かれていたいじゃないか。「ばーか」なんて返して、嫌われたくなんかないじゃないか。
「そうしたら男は全員いなくなるんじゃないか、って思ったのね」
上野先生がわたしの目を見て尋ねる。わたしははい、とうなずく。わたしが1割くらいしか残らなそうと返すと、1割は強欲だと一蹴されてしまった。わたしは友達として少なくとも1割くらいの男の子と仲良くしてたいな〜という意味合いで発言したのだが、上野先生には恋愛としての意味合いで受け取られてしまったようだ。その文脈ではちょっぴり恥ずかしい。
「何人に愛されたい?」
「…ひとりでいい」
「そうでしょ」
やはりここでも答えは単純だ。(ちなみにここだけの話、後から「流石に1は少ないから数人かな」と訂正していらっしゃった。わたしもさすがにちょっと寂しい。性別にかかわらず友人は欲しい。でも数人くらいなら味方の男の子がすでに周りにいることに気がついたので、彼らを友人として本当に大切にしようと思う)
上野先生直伝。性差別にあった時の対策
そしてそこから始まった、対性差別発言作戦会議。
1.性差別発言なんてだいたいはパターン化されているので、反論もパターン化して頭に入れておくと良い。
2.人は目の前で嫌な顔をされたり嫌なことを言われたりすると学習するので、嫌なことはきちんと嫌だと伝えると良い。
3.溜め込むのはとにかく美容と健康に良くないので、きちんと反論して発散すると良い。
気負って行ったインタビューだったのに、これらの答えは予想以上にあっけなくて、むしろなんだかちょっと面白くて、それなのにその明快さの裏には先生自身が何十年と感じてきたことがぎゅっと濃縮されていて、嬉しいんだか悲しいんだかいろんな気持ちがごちゃ混ぜになって、ほどけた緊張も相まって、わたしの胸中は感情のジェットコースターと化していた。上野先生の発言の有無を言わせぬ強さに怯んでしまう瞬間もかなり多かったし、帰ってからぐったりとしてしまったが、それでも行けてよかったと思っている。
「あなた本当に溜め込むタイプなのね。美容と健康に良くないよ」
そう言って上野先生は、あっけらかんと笑っていた。未来のわたしもどうか、あっけらかんと笑えているといいな。でもやっぱり「ばーか」は言えないかな…威圧的に微笑むくらいが限度かも…。
上野千鶴子さん×かがみすと
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