上野千鶴子さんに質問「ベッドの上では男が求める女を演じてしまう」
【01】上野千鶴子さん×かがみすと「セックスについて」
かがみよかがみでは、10月に「5年後の女の子たちへ」をテーマにエッセイを募集しました。投稿していただいた方のなかから、4人のかがみすとが社会学者で東京大学名誉教授の上野千鶴子さんとの座談会へ。日々感じるモヤモヤを、日本のフェミニズムの第一人者である上野先生へぶつける時間となりました。当日の様子を伝えるレポート、参加者の感想を全11回で紹介していきます。
かがみよかがみでは、10月に「5年後の女の子たちへ」をテーマにエッセイを募集しました。投稿していただいた方のなかから、4人のかがみすとが社会学者で東京大学名誉教授の上野千鶴子さんとの座談会へ。日々感じるモヤモヤを、日本のフェミニズムの第一人者である上野先生へぶつける時間となりました。当日の様子を伝えるレポート、参加者の感想を全11回で紹介していきます。
インタビューするのはこちらの4人。
元美容ライターの人生模索中ニートみたいなライターです。
翻訳家をしています。
都内の大学生。就活が差し迫る中、絶賛自分探し中です。
フランス語と文学理論を学ぶ大学生。7月まで留学していました。
薫:こんなこと言ったら上野先生に怒られちゃうかもしれないんですが、私、セックスが大好きなんです。
上野千鶴子さん(以下上野):ねえ、なんでそんな前フリするの?まず、年長の世代が性に保守的だとは思わないでほしいの。
私の学生時代は学生運動も盛んだったけど、性革命の時代でもあった。「初夜」なんて馬鹿げた言葉がまだあったこともあって、その反動も激烈な時代でした。フリーセックスという言葉が出てきたのはちょうどその時期で、学生運動のバリケードの裏でフリーセックスをしている学生はたくさんいたの。オープンマリッジ(婚外交渉OKの結婚)やポリアモリー(複数のパートナーと性愛関係を結ぶこと)って最近生まれた概念のような扱われ方をしているけど、昔からある。だけど、そんな性的な実験がどこに雲散霧消したのってくらい、その後みんなモノガミー(1人のパートナーとのみ性愛関係を結ぶこと)の結婚に流れ込んでいったのよね。
薫:わわわ。失礼しました。話を戻すのですが、私もセックス大好きなんです。でも、私はセックスの最中に「男性の求める女像」を演じているときがよくあって。そのことをすごく嫌に思うときもあれば、快感に思うときもある。自分が消費されていると理解した上で演じているので、男性を侮蔑している面もあるのですが、男性の欲望に加担して、男性からの承認に依存して生きている気がします。男性からの承認が自分の核になってしまっているようで、複雑な気持ちになるんです。
Ruriko:上野先生の著書で、「一般の女性とセックスワーカーの差異がなくなってきている」というのを読んで、昔の私だと思いました。過去にワンナイトした相手にお金を少額ですが、もらいました。全く気持ちもなかったしヤケクソな感じのセックスだったので、まあいっかくらいでラッキーくらいの気持ちでした。
「自分の身体って売れるんだ」と素直に思ったんです。リスクもあるのでセックスワーカーになろうとは思わないのですが、女性を下に見る男性に加担している気がしました。セックスポジティブという言葉も最近はありますが、セックスをポジティブにとらえるというのはどこまでがありなのか、わからなくなりました。
上野:え?ていうことは、あなたたちは、自分の性欲からセックスしているわけじゃないの? 男にセックス「してあげてる」の?
薫:私は性欲で動いています。でも、私が男性に対して性的に平等だと思ってセックスしていても、男性側が「自分が女よりも上位に立っている」と思いながらセックスしているとしたら、それって平等なセックスじゃないんじゃないかなって思うんです。
上野:セックスには二人の当事者がいるでしょ。だからこれは異文化接触なのよね。一つの行為をしながら二つのシナリオを生きてる。女は女で自分の作ったセックスのシナリオを生きているけれど、男は男で、自分のシナリオを生きてる。
一度でもセックスした相手に「責任取ってよ」と迫る文化はなくなったし、婚前交渉という言葉も生まれては消え、今ではもうセックスした相手がそのまま結婚相手だなんて誰も思わなくなった。それはすごくいいことでしょ。
問題なのは、日本には性の二重基準があるってことよね。たくさんやる女は「ビッチ」で、たくさんやる男は「モテ男」みたいにね。男のそういう文化的なシナリオにはまると、性的に能動的な女は男にとって便利な女になってしまう。お金も要求しないし、相手を拘束もしないし。
薫:そう。私がそれで気持ちいいと思ってても、全然平等じゃないなって思うんですよね。だから平等なセックスが実現するためにはどうしたらいいんだろうって。
上野:男と女がセックスする時は、単純な「裸の付き合い」なんかじゃないのよ。人類数千年の文化の歴史を背負ってるから。女が自由な女っていうシナリオを生きているつもりでも、男は男のシナリオのなかにいるのよね。だから、同じ行為をしていてもディスコミュニケーションが起きるの。でもしょうがないのよ、異文化接触だから。あと数世紀かかってもこの異文化の非対称性はなくならないと思う。
一同: え~~。
上野:だけどね。シナリオが変わらないとしても、自分のシナリオは自分で選ぶことができる。場合によっては、相手の男のシナリオに付け込んでそれを利用することさえできる。ごく稀には男のシナリオをちゃんと教育して変えさせてやることもできる。ただ、男を変えるためには、相当のエネルギーと時間がいるから、時間とエネルギーを投資するだけの男に巡り合えるかどうか、そして、投資するだけの愛があるかどうかね。愛がなくちゃやってられないし、愛がなければ女だって男を消費して、使い捨てるでしょう。
薫:でも私使い捨てる自分が、「異性を性的に搾取して、支配欲を満たして自分の力を自覚するためにセックスしてるな」「すごくおっさんやってんな」」って思うんですよね。男性と同じことやってる気がして。いいんですかね?
上野:互いにイーブンだったらいいじゃない。相手のシナリオとあなたのシナリオが一致して、お互いを消費しあえばそれでいいじゃない。
薫:う~んでも男と同じことやってるなぁって…。そもそも平等なセックスとか考えてるのがあほらしいんでしょうか?
上野:いや、そんなことないよ。平等なセックスの方がずっと楽しい。カジュアルセックスをしているある女の子にね、「あなたセックス楽しいの?」って聞いたら「ううん」って答えたの。「男に求められるのが快感だからやってる」っていうのよね。
セックスの基本の「き」はね、欲望っていうものが自分の中にあることを認識して、その欲望の主体になれるかどうか。男は欲望をあからさまに出してくるから、主体性を持っていないと女は「やらせてあげる」になっちゃう。だから、「やらせてあげた」自分に満足することになってしまうのよね。欲望の客体となって「やらせてあげた」セックスよりも、欲望の主体になるセックスの方が、クオリティは上がる。上げるためには、お互いのシナリオのすりあわせをしないといけないけど、そのすりあわせは1回や2回のカジュアルセックスじゃできないでしょう。
私がセックスワークや少女売春になぜ賛成できないかというと、「そのセックス、やってて楽しいの?あなたにとって何なの?」って思っちゃうからなのよ。
自分の肉体と精神をどぶに捨てるようなことはしないほうがいいと思う。自分を粗末に扱わない男を選んでほしい、だってそっちの方が絶対セックスのクオリティが高いもん。
Ruriko:それ、昔の私かも。セックス中ずっとぼーっとしてた。相手の顔すらまともに見てなくて。セックスは全然気持ちよくなかったし、楽しくなかったけど、男に求められることに自分の価値を置いていたんだと思います。だけど、数年前に出会った男性がすごくセックスがうまかったんです。彼に出会うまでは、「セックスで自分から動くのは恥ずかしい」「セックスを知ってる女と思われるのが恥ずかしい」と思っていたんですけど、彼がオープンに性の話をしてくれたから自分でも徐々にセックス中に動けるようになりました。そしたら、すごくセックスが楽しくなった。
上野:よかったじゃない。それは彼に単にテクニックがあっただけではなくて、彼があなたのタガを外してくれたんだと思うよ。クオリティの高いセックスを知ると、クオリティの低いセックスは、時間とエネルギーの無駄だったとバカバカしくなる。私はそんな実感たくさんあるわ。でも、試してみないとそれが無駄だとも分からないかも。まずいものを食ってみると美味いものが何か、そのクオリティの違いが分かるようになるのと同じ。
私が言いたいことはね、日本のすべての女性に、男性もいれてもいいんだけどね、クオリティの高いセックスをしてほしいってことなの。なぜってそれが人生の豊かさのひとつだからね。
性の市場では、悪貨が良貨を駆逐するじゃなくて、その反対、よいセックスがつまらないセックスを駆逐すると思ってるから。
1948年、富山県生まれ。京大大学院社会学博士課程修了。東京大学名誉教授。日本の女性学・ジェンダー研究をリードし続けてきた。認定NPO法人「ウィメンズアクションネットワーク」理事長。著書は『情報生産者になる』『不惑のフェミニズム』など多数。
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「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
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