フェミニズム批判にはどう対応すればいいの?

沙波:Twitterでフェミニズムについてつぶやいたら、男の子から批判を受けたり、匿名でちくっとすること言われることがありました。フェミニズムという言葉に対して彼らが悪いイメージを持ってると感じます。悪いイメージを持たれないためには、私たちは最低限どんなことができるのでしょうか?

上野千鶴子さん(以下上野):悪いイメージを持たれないようにするのは、私たちの側の責任なのかしら。なんで私たちが彼らのために、親切に努力してあげなきゃいけないの?具体的にどういう批判を受けたの?

沙波:私がTwitterで、大衆向けのアニメで極端に胸や下着がチラチラ見える描写が散見されることについて疑問を投げたら、数時間後に友達が「そんなの気になるなら見なきゃいいじゃん。性欲否定するなよ」ってつぶやいていました。また、Twitter上で匿名でメッセージを送れる「質問箱」というサービスで、女の子から「私は男の人に甘やかされるのが大好きなんですけど、そんな私のこと軽蔑しますか?」って言われたこともあります。

上野:そういうレスにあなたは精神的にこたえる?いちいち刺さる?

沙波:嫌な気持ちになります。

上野:うん、他人の悪意っていうのは確かに気分悪いよね。なら、そういうことを言われないように自分が変わろうと思う?

沙波:変わりたくないんですけど、何とか歩み寄る方法を見つけたい。上野さんは歩み寄る必要はないと思いますか?

上野:「ばーか」って言っちゃだめ?だって今の話聞いてるだけで、彼らのレベルの低さがバレバレだよね。いちいち相手にしなければいい。だけど少しずつ社会は変わっていくのよ。もし「性欲否定するなよ」って言われたら、私ならすぐに「あんたの性欲、そんなに幼稚で野蛮なのか」って返す。ゆさゆさ揺れるおっぱいとか、露出度高いベビーフェイスの女の子とか、ステレオタイプでワンパターンだよね。「キミたち、こんなステレオタイプに反応するほど幼稚で野蛮な性欲の持ち主なんだね」って言えば終わりじゃん。

沙波:そこで攻撃的な言葉を使って相手の気分を害してしまったらどうしようって思うんです。

上野:気分を害しちゃいけない?相手は悪意を持って、あなたの気分を害したんだよ。悪意にどう対応するかといったら、同じように悪意で対応するか、全く相手にしないかどっちかでしょ。

みのり:SNSであれば見ないこともできるんですけど、実際の生活でミソジニーな言動に触れることはすごく多い。

上野:それを何とかするのはあなたの責任なの?

みのり:私の責任ではないんですけど、それを言い返せる人と言い返せない人が実際いると思います…。

上野:みのりさんはどっち?

みのり:私個人に向けられたものだと言い返せないことの方が多いです。黙って自分で消化しようとしてしまう。

上野:でも、消化できないからむかつくんでしょ?

みのり:はい。

上野:むかついたあとどうする?

みのり:うーん...。

上野:イライラがたまるでしょ?私だって若い頃から即座に言い返せてたわけじゃない。でもイライラがたまると美容と健康に良くない(笑)。だから「今度あのヤローにああ言われたらこう言い返してやる」って事前に準備しておくのよ。彼ら創意工夫もオリジナリティもないから、ミソジニーな発言って、実は数パターンでステレオタイプなの。ちゃんと傾向と対策を練っておく。そうすると次からは、「おぉ、きたきたー」って楽しくなるわよ。

上野:私の世代において一番イヤな攻撃は「どうして子ども産まないの?」っていうものだった。日本の女にとっては、「結婚するかしないか」ではなく、「母になるかならないか」が「女の上がり」を決める。母にならない女は、永遠に「女の欠陥品」と思われていた。そういうイヤがらせにも、タイプ別に返しを考えてやってたのよね。相手が虚を突かれる姿を見るのって、たのしいよ~(笑)。

相手は虚を突かれて、イヤな思いするでしょ。そうすると少なくとも私の前ではもう二度と、同じことを言わなくなるのよ。その時その場で「それアウトだよ」って言わないと、相手は絶対に学習しない。

その人のミソジニーな人格は変えられないかもしれないけど、少なくとも「私の前では気をつけて口利けよ」って、自分を守ることはできるじゃない。

沙波:そうですよね。でもそこまで振り切れる勇気もまだない。

上野:なんで嫌なの?面倒な男が寄ってこなくなるし、男を見分けるリトマス紙になってラクよ。

沙波:そしたら、まわりから男性がいなくならないですか?

上野:男に対する信頼ゼロ、ね(笑)。

沙波:ゼロです。

上野:男も色々だから心配しなくていい。私に寄ってくる男だっているから(笑)。

沙波:中高女子校だとお笑い芸人的なメンタルも育つから、人がたくさんいるときも笑い取りたくて。男子が「女子がそんなことすんなよ」って言ってきたりして、「そうだよね、私女子として欠陥品だからさ」って返したりしてました。

上野:なんで自虐ネタで返さないといけないの?なんで「それがなにか?」「あんたにウケようと思ってないから」って答えないの?

沙波:ずっと刷り込まれてた「良い女の子像」みたいなのがあったからだと思います。

上野:でも、そこであなたが自虐ネタを言ったらどうなるの?

沙波:さらに拍車がかかっちゃう。でも、言い返してもはぐらかされることが多くて。

上野:いいのよ。はぐらかすってことは、相手が対応しきれないってことだから。バカじゃなければ学習するでしょう。それでも学習しない男は放っておけばいい。そんな男が寄ってきてもイヤなだけじゃん。

沙波:そうですね。でも、「誰にでもいい顔したい」って八方美人な感覚を持っちゃうんですよね。

上野:分かるわ。それをジェンダーの社会化っていうのよ。女の子って気配りや配慮を持つように育ってきてるから、相手が男であれ女であれ、目の前にいる人が不愉快な顔をすることに自分が耐えられないのよね。私だってそう。その社会化が裏目に出ることもあるし、いい方向に働くこともある。おかげさまで私は「気配りのウエノ」って呼ばれてます(笑)。でも不愉快な相手にはきちんと、「あなたは不愉快だ、なぜならば...」って教えてあげないとね。相手は自覚してないんだから。

上野さん「私だって好き好んで打たれ強くなったわけじゃない」

上野:私はそういう場数をたくさん踏んできたから、相手の言動を予期できるようになって、こんなにすぐに返せるようになった。私は、「打たれ強い」ってよく言われるけど、好き好んで強くなったわけじゃないから。学習の結果だからね。相手を変えようと思って教育するのはエネルギーがいるし、その源は愛。愛を持てない相手はほうっておいていいの。すべての人に愛なんて持つ必要ない。沙波さんは、「そうしたら男が全員いなくなるんじゃないか」って思ったのね。

沙波:はい。1割くらいしか残らないんじゃないかって。

上野:わお、1割だったら上等じゃん!10人に1人に愛されようと思ってるの?欲が深いよ(笑)。

沙波:え~~じゃあ体感的にどのくらいだと思います?

上野:何人に愛されたい?

沙波:...ひとりでいい。

上野:そうでしょ。あなたがちゃんと言い返せば、そのハードルを越した男だけが寄ってくるから、スクリーニングができる(笑)。

みのり:自分より立場が上の人だと余計に言い返しにくいです。このサイトに寄稿してることも、身近な人には言っていません。ペンネーム使ってるのもそういうところがあって。自分が腹の中ではこう思ってる、みたいなのがばれたくなくて。「人あたりいいね」とか「社交的だね」と言われるんですけど、もし自分がこんな風に書いてるのを見せたらギャップが多すぎて自分が死ぬんじゃないかと思って。

上野:そんなあなたに、はけ口を与えてくれてるのがこのサイトなのね。ペンネームをいくつも作ったらいい。親に自分のすべてを明かす必要なんてなにもない。親もあなたにすべてを見せてるわけじゃないでしょ。親に見せない自分を持つところから、子どもは大人になります。

怒りの原動力は、自分も苦しい

薫:みのりさんと沙波さん、この場で泣いてしまうほど、痛みを抱えているわけじゃないですか。こういうことを次の世代のために引き継がないために、ムーブメントがあると思うんです。でもそれって当然ながら怒りのエネルギーから始まっている。ネガティブな気持ちが原動力になってると、自分自身もしんどくなることがあります。

上野:そうね。私も快楽や美しいことを追い求めるようなポジティブ・エネルギーで生きられたらいいなって思うわ。だけど、残念ながら怒りのエネルギーの方が勝っていたし、目の前にたくさん怒りの原因があるから、ずっと怒り続けることができちゃうのよね。でも自分に正直に、感情を解放して生きるのは、そうでないよりずっと楽しいことよ!

上野千鶴子さんプロフィール

1948年、富山県生まれ。京大大学院社会学博士課程修了。東京大学名誉教授。日本の女性学・ジェンダー研究をリードし続けてきた。認定NPO法人「ウィメンズアクションネットワーク」理事長。著書は『情報生産者になる』『不惑のフェミニズム』など多数。

上野千鶴子さん×かがみすと

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