一見円満そうに見えて、複雑な私の家族の中の距離。

コロナが広がって、父はテレワークに、私は大学の講義が延期でバイトが減ることになって、必然的に私たちの一緒にいる時間は増えた。

私と父は微妙な関係だ。

よそんちの「父」と「娘」よりは多分距離が近いと思う。彼はゴミ捨てにも一人で行けないほどの極度の寂しがり屋で、家の冷蔵庫が開けっぱなしにされた時のアラーム音にも(買って5年も経つのに!)「これなんの音?」と素で聞くレベルには生活能力が低い。だから家族での会話は多い。
でも、一見円満そうにも見えるけど、父が私に対して過干渉なのだ。

たとえば。
私は今20歳を超えてるけれど、スマホに入れたいアプリを入れる権限は父である彼が握っている。そして基本的に入れてくれない。
あとスマホの位置情報サービス、私のを父は知ることが出来る。鳴らすことだって出来る。前私が恋人といる時に、嫌がらせで鳴らしまくってきたこともあった。あのポポーンと大音量で鳴って震えて光る携帯の恐ろしさたるや……。
父は基本的に私の恋人がどんな人であろうと嫌いだし、恋人のことも恋人がいる私のことも手ひどいルッキズムと性差別でもって貶してくる。たとえばこう。「文乃の彼氏ジャガイモみたいだね」「また男と会ってきたの?」フェミニズムを知ってなければぐさっと刺さる、と思うセリフ。ちなみに後者については年頃の時期に、繰り返し繰り返したとえ男と会ってようが無かろうが言われた。とても嫌だった。
それから初めてのバイトの時とか不安なとき、かつ自分を介さない私の行動や選択がなされた時の彼の「失敗して欲しい」という願いようはすごかった。「どうせ出来ないよ、失敗する」と自信を失わせようと不安を煽りに来るのが彼の常だった。ダメだと言う、でも根拠は言わない。不安だけくれる。

もしかしたら精神的暴力と言う名で、DVに入るのかも知れない。

父は私を支配したいのだと思う。
自分の思い通りに動かないのが気に入らなくて、貶したり怒鳴ったり監視したりして、コントロールしたいのだろうと思う。

過干渉というか、私を支配下におけるものとして扱っている感がすごいある。それの対象になっているのは私だけじゃ無く母も同様なのだけれども。

それは、もしかしたら精神的暴力と言う名で、DVに入るのかも知れない。思いついたDVという言葉にドキッとした。ひやりと胸の内が冷える音がする。
DV、それは強い言葉。

そうだとしても、その鋭い言葉で糾弾するには彼は私の懐に入りすぎていて。

どうにもできない。

いっそのこと憎めたら楽なのに。憎むには近すぎる。

父は不完全な人間だ。抜けている。ITのことはよく出来るのに、その他に関してはめっぽうダメで、頭がよくない。
関ジャニを「セキジャニ」と読んだり、ウーバーイーツの存在を知らなかったりする。日本語はときどき正しくないし、諺や故事成語になると本当に目も当てられない。

いっそのこと憎めたら楽なのに。

私の携帯の迷惑メール対策などを予めやっておいてくれるのは父だし、夜勤のバイトで3時4時くらいの始発もまだの時間に終わっちゃった時起きていて迎えに来てくれるのも父だ。差別的で支配的で暴力的なのに、優しいのだ。
そんなことで言い訳にも免罪符にもならないのに、ほだされている。まるでDV夫に殴られても「でも抱きしめてくれるの……」って言って擁護する妻みたいだなって自分でも思うんだけど。
憎むには近すぎる。

嫌なことをされて、怒っても、父は聞き流してまともに受け止めてはくれなくて、でも簡単には離れられないから取りあえず流して、また嫌なことされて、を繰り返している。過干渉されなくてもセクハラされる母と過干渉される私の二人は、父と。

流しても、そこにはある。無かったことにはならない。

いつか父が私の、そして母の、父にされて苦しかったこと嫌だったことを正しく聞いて受け止められるようになる日は来るだろうか。
私たちを対等の人間として、彼が見られるようになる日は来るだろうか。

多分来ないとわかりながら、希望的観測をしたがっている。母と二人で「あのおじさんやだねー」と茶化して文句を言い合いながら、それでもきっと葬式では泣くのだろう。

その前に、正しく怒りが伝わる日が来るのか。家にいる時間が増えて自分の身の周りと向き合うことが増えた、そんな中私は父の部屋のパソコンの音を聞きながら、そんなことを考えた。