私の住んでいる地域は、夜に出歩くこともあるくらい比較的安全な地域です。ホームレスを見ることはありますが、危害を加えられることはないので、普段はそこまで危険を感じずに生活しています。それでも、今回のデモから飛び火した暴動によって、大きなショッピングモールが壊され、略奪され……暴動が起きていました。外出禁止令もでて、毎晩緊張が広がっていました。

私は抗議デモに参加しませんでした。今の私にとっては、デモに出て行くよりも、コロナ対策の外出自粛の優先度も高いのではないかと思ったからです。そして私はデモ以外にも参加できる方法があると思いました。

「人種差別をなくす」というゴールはみんな一緒だけど、そのアプローチは様々だと思う。おのおのが自分の正義を持ってやっているので、何が正しい、間違っているというのはないと思っています。

今回は私が話すのも「私の正義」の話であって、抗議デモをしている人たちを否定したいわけではありません。そこを前提に話を聞いてほしいと思います。

黒人の夫も警察に手錠をかけられたことがある

私は黒人の夫と、交際から2年で結婚。結婚して1年になります。これまでに彼は警察に疑われて、手錠をかけられたり、追いかけられたこともあります。今回の事件も他人ごととは思えませんでした。

私たちが子どもを作ったら、その子は黒人になります。私は彼と付き合ってから、人種問題に対して自分は何をできるかを考えてきました。そうした思いもあって、ちょうど1年前の6月に、黒人の親が子どもに「警察に補導された時にどう対応をすべきか」を教える動画を翻訳してツイートしました。これは確か、その時で2.5万リツイート。事件後にまたリツイートすると、3.5万まで拡散されました。

ぜひ見ていただきたいのですが、もし逮捕された時は「私は武器を持っていないしあなたを傷つけません」と子どもに言うように教えている内容です。これは特別なことではなくて、多くの黒人が意識している“知恵”です。

黒人の夫が言った「どうしたらこわいと思われないかを考えて、接している」

夫がデモをのぞきに行ったときに、13歳の女の子が「黒人なのに白人みたいに話すねと言われた」とスピーチをしていたのをみて「とても悲しかった」と話していました。「白人みたいに話す」というのは、黒人たちが使うスラングではないという意味かもしれません。しかしそれもステレオタイプであり、人の見た目は話す言葉と関係はないはずです。

「僕もなるべく笑顔で、丁寧に、愛想よく話して、周りの人を安心させないと、という意識がいつもある」と夫は言います。

夫はこの地域で育ち、たまたま白人の友達の方が多い人生を送ってきました。彼の育った場所でスピーチする少女に彼は自分自身を重ねたのかもしれません。

「自分がどうしたいか、よりも、他人が自分をどう思うか、どうしたらこわいと思われないかを考えて生きてきた」

それが黒人に生まれた夫の現実でした。

6日、ホワイトハウス周辺で行われた抗議デモ=ワシントン、ランハム裕子撮影

女性が参政権を得てから75年。いまだにある「女性だから」

一度植え付けられた価値観を洗い流すのは、とても時間がかかること。根強い人種差別の中で失った自己肯定感を取り戻すのはとても難しい。

私が自分のことに置き換えてみると、男女格差の問題がよく似ているように思います。日本では女性が参政権を獲得して75年たちますが、まだ「女性だから」と自らを下げてしまうことがたくさんあります。

こうやって自己肯定感の下がった状態では、親も子に「新しいルールで生きなさい」「もう変わったんだから」と教えられないんですよ。卑下する母親を見てると、自分も卑下する女性になってしまう。それって人種問題も似たものがあるんじゃないかと感じました。

「理解」のためにはマジョリティーの連帯が必要

分断をうめるためには、どうしてもマジョリティーの協力が必要になります。

例えば、男女格差をなくすためには、男性の理解と協力が必要。

私は女性として、当事者として自らの声を発信しています。

しかしツイッターで私が何度丁寧に話しても理解されなかったことを、私とまったく同じことを私のフォロワーの男性が説明して「ああ、わかりました」と引き下がってくれたことがありました。

わかってくれたことは嬉しいですが、私が女性だから話を聞いてもらえない、わかってもらえないのかと思いショックをうけました。

しかしそれも視点を変えれば、マジョリティーの口からマジョリティーへ説明することは「理解」のための近道になりえるということだとも思います。黒人が言っても聞かないけど、同じ立場の白人が伝えたらわかってもらえる、ということが悲しいけれどあります。

実際にデモに参加した白人の友達はそれを体験したと言います。彼の持つBlack lives matterの看板を見て、通りかかった白人男性から「All lives matter(全ての命が大切)だろ」と言われたそうです。友人はその男性を説得しました。そして最後には友人のいうことを理解してくれた。

彼が聞いてくれたのは友人がその人と同じ白人だったからかもしれない。それでもこの問題について白人男性として協力できるならその役目を果たしたい。と彼は話していました。

だから、全ての人がなんらかの形でこの問題に参加することができると思います。今回のデモの敵は白人ではありません。敵は差別主義者です。

抗議する人の考えも様々。でも目指すゴールは一緒

抗議を示すために「#blacklivesmatter」と黒塗りの画像をSNSに投稿する動きに対して「パフォーマンスにすぎない」「届けたいメッセージを邪魔してしまう」という意見もありました。でも、「何もやらないより、いいよね。誰かの目について、考えるきっかけになるかもしれないよね」という考え方もあると思います。ほかにも、「いまSNSで抗議を表明しないのは人種差別主義者だ」という主張も見ました。SNSで見えない形で抗議をしている人もいるかもしれないという視点も持ってほしいなと思います。

これは全て私の意見ですが、私は私の意見だけが正解だと思いません。

例えば、私はフェミニストだけど、フェミニスト全員の意見に同意できるわけではない。しかし同じゴールを目指す仲間として協力していきたいと思っています。

同じく、人種差別に抗議する人の考え方もそれぞれだと思う。でも、目指すゴールは一緒で「差別のない社会」ですよね。そのために、一つの方法だけを正しいとし、他の方法を否定するのではなく、私は私ができる関わり方で世の中にメッセージを発信することこそが1番大切なことだと感じています。



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藤井美穂

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