「別れよっか」
「えっ…」
その言葉のあと、君は無言になった。

「本気で言ってる?」
しばらく黙った後、君はそう言った。うん、と言うと、そっか、と。
「ちょっと考えさせて、また電話するね」
「今決めて」
そう言う私は薄情だろうか。でも、いったん電話を切ると、私の決意が揺らいでしまう。

「わかった。別れよう。今までありがとう」
「こちらこそ」

もうすぐ付き合って2年になる前だった。

恋に恋していた私は、私を好きになってくれた君と恋を始めた

君は、私が付き合った人の中では珍しくとてもまともな人だった。
なんでかというと、君が私のことを好きになってくれたから。私が好きになる人は「ダメンズ」が多いらしく、友達にいつも本当男見る目ないよね、と言われ続けていた。

毎回別れた後に、「なんでこんな自己中好きになったんだろう…」と反省した。好きな時は、すべてが大好きだったのに。
「結局、恋してる自分に恋してるだけなんだよ」、いつか元カレに言われた言葉に、確かにそうかも、と思ったことも事実。

じゃあ、私に告白してくれた人と付き合ったら。気が狂ったような好き、からスタートしなかったら。もしかしたらちゃんと相手のことを好きになれるかもしれない。
そう思って、告白してくれた君と付き合うことにした。

きちんと3回目のデートで告白してくれた。順番を間違えなかった。珍しく、まともな恋だった。
最初は、続くかどうか心配だった。全然好きじゃなかったから。連絡来ないかなーとも思わなかったし、会いたいとも思わなかったし、会う日は服とか選ぶの面倒くさい、と思っていた。自分から好きになったときは、5分に1回は連絡が来てないか携帯を見るし、常に会いたいし、会う日のために服を買いに行っていたのに。

友達に珍しくあまり恋愛の話をしないね、と言われた。いつもは90%以上は恋愛の話なのに、その時は多分20%くらいだったと思う。

どんどん好きになっていく。同時に、少しずつズレが生じていった

結局、最終的にはちゃんと好きになった。はかれるかわからないけど、後半は多分私の好きの方が大きかったんだと思う。
そして、今までで一番続いた。いつもは私が、「あれ。こいつクズじゃね?」と、恋愛マジックが溶けた瞬間に終わりだったのだけれど、君は人柄から好きになって、恋愛に発展していったから長く続いたんだと思う。

でも、同時に。君と私の違いがどんどん明るみに出ていった。
私は好きな人と四六時中一緒にいたいし、毎日連絡をしたい。でも、君は一人の時間がないとだめだった。
私は優先順位は彼氏が一番だったけど、君は友達と彼女は同列だった。
私は先に約束をして、予定を押さえておきたい派だったけれど、君はあまり先の予定を抑えるのが好きじゃなかったね。

君が悪いわけでも、私が悪いわけでもない。
ただ単に、相性の問題なのだ。一緒にいるには、努力が必要だった。どちらかが変わるか、両方が歩み寄らなければいけなかった。

だけど、二人とも極度の一人の時間必要派と一人が絶対嫌派で、まさに対極に位置していたので、ちょっとやそっとの我慢じゃ無理だった。

限界を感じた「恋人の優先順位」の違い。好きなのに、別れを選んだ

最終的に別れるきっかけになったのは、花火大会に行く約束をしていた時。
私と一緒に行く約束をしていた日の3日後に、君の仕事で大きなコンペが入ってしまった。だから、別の花火大会に行くことにした。でも、その前日に彼が熱を出してしまった。だから、また別の花火に行こう、と話した。
そして、距離的に行ける、日程的に今年最後の花火に行こうと誘った。そしたら、「ごめん、その花火、同期のみんなで行く約束しているんだ」と言われた。

その瞬間。私の中で、何かがプツン、と切れた。
花火に行けなかったことが、そんなに悲しかったかというとそういうわけではない。
別に同期とじゃなくて、私と一緒に行ってほしいとか、少しは思ったけどそういうわけじゃない。
ただ、君と私の、恋人の優先順位の違いに、もう耐えられなくなったのだ。

そして、冒頭に戻る。君は、君なりに私のことを好きだったんだろうし、私は私なりに君のことが好きだった。
昔なら身分の違いとか、今なら遠距離とか、そんな外的要因というわけでもなくて。好き同士で別れるなんて。

もうちょっと努力でもすれば一緒にいられたのかもしれないけど、でも、その時の私には、これ以上好きなのに嫌いになるのが怖かったのだ。

もうすぐ、夏がくるよ、君なしの。ちょっとだけ、君のことを思い出したよ。
ありがとう、初めて本当に恋した人。