風俗嬢だった思い出したくない過去が、今の私を少し強くしてくれる
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初めてのお仕事は、デリヘルだった。
なぜデリヘルなのか、なぜあのお店にしたのかは全く覚えてない。
“業界未経験”だから、なーーんにもわからなかった。
面接官は60歳くらいの高そうなスーツを着たおじさん。
簡単な書類を書いて、お給料のことを話されて、そして“講習”に行った。
外に行くから「なんだろう」と思っていたら、ラブホに入っていった。
60歳くらいのグレーのテカテカなスーツを着たおじさんと2人で。
びっくりした。
服、着てない。
シャワーもベッドも、全部やった。
何も知らなかった。
本当に何も知らなかった。
これまで数回ワンナイトがあったから「大丈夫だろう」と思った。
とは言え、なにをやってるんだ自分。
「ただこのおっさんの指示に従うだけ、動くだけ、媚びを売る必要はないんだから」って思うようにしてた。
「無になろう無になろう」って。
講習のあと、そのまま仕事に入った。
初めての客の顔は、覚えてない。
狭くて安そうな部屋だったのは覚えてる。
シャワーから入るんだけれど、浴室に入った時点でその人のそれはもう元気になっていた。
見て見ぬ振りをした。そのあとの記憶は何もない。
終わってすぐ、別のお客さんのとこへ。
その人がわたしのことを指名してくれるようになった人だった。
経済や政治、国際的な話等々したら好かれたようだ。「バカじゃない」と思ってくれたみたい。
草食系で弱気そうな人だった。
優しすぎて気を遣いすぎて、女性とどう関わったらいいかわからないタイプだと思う。
持ってきてくれたお菓子が嬉しくて喜んだ記憶はある。
彼とはそのあと3回会ったんだけど、ほぼ覚えてない。
事後、スーツを着せてあげたことくらいしか思い出せない。
わたしにとって、デリヘルの高すぎる給料が、クセになってしまった。
当時、家族とうまくいかなくなり、友達のシェアハウスに転がり込んだから、お金が必要になった。情けないことに当時彼氏がいて、彼の遠征の応援のために飛行機代と宿泊代も必要だった。
7万円。デリヘルの相場では、決して高くない額。これを4回に分けて稼いだ。
お金を得ると、心からほっと安心した。ちょっとしたことに幸せを感じる余裕ができた。
当時、就職活動、大学の単位、家族との関係、元カレに振られ、何にもうまくいかなかった。
休学して海外インターンをしようとするも、持病の主治医から長期の海外は却下されたところだった。
先のことも今も全て苦しく、なにもできないと思い込み、投げやりになっていたのだ。
母親からの虐待の影響から、もともと自己肯定感がゼロの私は「自分なんてどうでもいい」って21年間ずっと思っていたけれど、お金が必要になったこの時、この仕事を選んだ。
勤務は負担だった。
初対面の人とキスするんだもん。
キスって、ディズニーでいう最高のゴールだよ。
うまくやれなかったらどうしよう。
こんなに簡単にお金がするっと入るんだもん。
こうやって働いていること、周りに言えないし後ろめたいよ。
このお仕事は間違えたことじゃないよ、他の職業も同じように体を張ってるんだよ。
ちょっと世間から疎まれる職業なだけだよ。
でもでも、誇りをもって働いている人もいるんだよ。
色んな言葉を、色んな言葉で言いくるめた。
言葉にできない罪悪感も常につきまとった。
お金を受け取る時のワクワクもありありと思い出す。
自分の中でいろんな声が入り混じって
バランスを取るのが大変になってしまった。
そもそもこの仕事の何が問題なんだろう。
身バレ?年金?体?病気?
一体何なんだろう。
身バレは、お客さんの職業や住まいからNG出せる。
年金は、自己管理の話。
すごい額を稼いでいるから、自分で積み立てればいい。
体は、マイペースに働けるし、すぐ休めるから大丈夫。
病気は、まず自分がちゃんとうがいや消毒をして、お客さんにもやってもらって、
ちゃんと検査すれば、きっと大丈夫。
また、アリバイ対策をしてくれるから「一般企業で事務をしています」っていう証拠はもらえる。
職業で言葉に詰まることはない。
もし人気がなくて稼げなかったら他のお店を探せばいい。
私が思うのは、クセになってしまったり、味をしめてしまったりすること。
この2つが大きな問題だと思う。
嫌でも辛くても悲しくても後ろめたくても、たった2時間で1万3千円。
夜勤より高い。
ちょっと耐えれば、心身のコンディションが良ければ、1回でいいのだ。
「バイトしなきゃ…」
「欲しいものたくさんあるな」
「同じところに勤めて人間関係やノルマを頑張って毎日同じ時間に出て帰るより、好きな時間に出られて、たくさん寝て買い物も行ける方が、幸せだよな」
「ほんと嫌だけど、あの数十分だけだもんな」って、稼ぐ選択肢が増えてしまう。
デリヘルは4回で辞めたのに、今度はピンサロで数カ月、ガールズバーとマッサージで1回ずつ働いた。
一度入ったなら関係ない、どうせすぐ辞める、どうせ続かない、その場しのぎだし…と思いながら「でももう辞めたい」「いや、この後の数時間だけだ」ってこの2つの気持ちが戦っていた。
意志の弱さに、頑張れない自分が嫌で嫌でたまらない。
結局、風俗が関係あるのかないのか、精神が疲れてしまい、就活を続けられなくなり休学した。
今は、家族とも和解し実家に住み、週4でコンビニで働いている。
この苦い経験から得たものは、どう活かされるのだろうか。
正直、あの時のことは思い出したくない。
でも、あの時のことを思い出すと、雨が降ってても、生理中でも、寝転がってスマホを見ていても、起き上がれる。力が入る。踏ん張れる。
だって、私にとって、何とかできたはずの辛い過去だから。
きっとあの経験は、いつ切れるかわからない、もろくて深い古傷なんだと思う。
私はこの傷と一緒に、毎日生きていく。
傷を守るために、たくさんの治療を試していく。
遠回しに、自分のことを守ってる気がする。
自己肯定感ゼロの私が、もうこれ以上下がらないように、ギリギリラインがこの傷なのだ、きっと。
体を張ってつけられたギリギリの傷と、これから何をして生きていこう。
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