「フェミニストなのに、私はどうして男に守られたいと思ってしまうんだろう」「私はフェミニストだけど結婚したいし夫からは守られたい」――。そんな思いをつづったMAYさんのエッセイ「フェミニストでも、守られたい。フェミニストだから、守りたい」が、6月に掲載されました。
このエッセイのなかで取り上げられた「ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた ―あなたがあなたらしくいられるための29問」の執筆者たち3人とMAYさんがオンラインで集まり、エッセイが書かれた背景やフェミニズムなどについて意見を交わしました。
恋人に言われた「自分が養うから、がんばって」にもやもや
この本は、ジェンダー研究を専門としている一橋大学社会学部の佐藤文香教授のゼミ生らが作成。「どうしてフェミニストはミスコンに反対するの?」「女性専用車両って男性への差別じゃない?」「性暴力って被害にあう側にも落ち度があるんじゃない?」など29の問いに対して考察しています。
MAYさんは現在、大学でジェンダーについて学んでいる学生。さらにこれから大学院に進もうとも考え、就職が決まった恋人に相談すると、「自分が養うから、がんばって」と背中を押してくれたといいます。しかし、MAYさんはフェミニストとして「どうして男に守られたいと思うのだろう」と揺れる気持ちをエッセイにつづっています。
座談会ではまず、女性が働くこと、または専業主婦になることについて話題になりました。執筆陣のひとりのAさんは「特定の生き方や働き方を否定したり、推奨したりしたつもりはない」と前置きしつつ、専業主婦という選択の危険性を指摘しました。
Aさん「お金がないと生活できないが、専業主婦になれば、お金を稼ぐ手段、生きていくすべてを相手に依存することになる。生死をあずけてしまうリスクをはらむことを考えないといけない。しかし、社会には税金の控除など、女性を専業主婦に誘因する仕組みがある」
MAYさん「周囲には、専業主婦になりたいという女の子も結構いる」
Bさん「専業主婦になりたい、という人個人が悪いというよりは、女の人にとっての幸せは妻になり、母になることだと言われ、その道を選択するように迫る状況があるのに、選択したとたんに不利になる社会のあり方がおかしいというのが、フェミニズムが指摘していることのひとつです」
彼に「男らしさ」を求めてしまう。でも「男らしさ」ってなんだろう?
MAYさんに「養うから」と言ってくれる恋人。MAYさんも「男らしさ」を求めているといいます。「男らしさ」について、話題が進みます。
MAYさん「男の人から告白してほしいし、おごってほしいと思っちゃう。私も男らしさを求めてばかりです」
Aさん「私もおごってほしいと思う。でも、それは相手が男だから? 気前の良さを、必ずしも男らしさ、女らしさに位置づける必要はないのかな」
Bさん「男性が一方的に与えているのではなくて、女性もまた男性に対して与えているものがあるが、それが見えづらくなっている状況がある。たとえば専業主婦に対してよく『だれのおかげでメシが食えているのか』という言い方があるけれど、『だれのおかげで働けているのか』『だれが三食作っているのか』『だれがワイシャツにアイロンをかけているのか』と」
フェミニストとしてのMAYさんの葛藤を、恋人は詳しく知りません。フェミニズムの考え方に対して否定的な反応を示す男性が少なくないなか、恋人は理解してくれるのか。「彼にとっては遠いアフリカのレベル」と不安なMAYさんに、「男の人も、男らしさに苦しんでいる」とBさんたちは口をそろえます。なかでも執筆陣の一人であるCさんは男性。おさないころに「男らしさ」を押しつけられ、違和感を持った経験があります。
Aさん「『男らしく』見える男の人でも、いかにスポーツができるかとか、どれだけ収入があるかとか、男らしさを測る競争に駆り立てられている。そのつらさを見せないのも男らしさというなかで、ジェンダーって自分には関係ないと振る舞っている人もいると思う」
Cさん「男性は、働いている企業の格でマウントを取ったり、年収や結婚して子どもがいるかどうかを、格を上げるのに使ったりする。彼女がいるいないとか、童貞とか、そんな周りの話に参加する必要はない、というのは大事な視点」
Bさん「どんな人でも3年あれば変わる。ちょっとずつ話しているうちに、3年後には言うことが変わっていたりする。わざわざエネルギーを割いて説明してあげるかどうかは自由に選んでいいので、その人との関係が3年後も続いているかどうかは一つの判断材料になるかも」
望むと望まざるとにかかわらず性別で判断されるこの社会において、「ジェンダーに関心がない人はいない」とBさんは言います。会話のなかでMAYさんは、ジェンダーについて無関心だろうと言っていた恋人が話していたことを思い出します
(MAYさんの恋人)「男だから、養わなければいけない。年収が高いところに就職しないといけない」
やりたいことがあったものの、「給料が安いから」とあきらめたという恋人。その決断は、彼がMAYさんに見せた「男らしさ」から生じたものだったのではないかと、MAYさんは思いいたります。フェミニズムについて自身の理解が不十分だと意識してきたため、恋人と深く話すことをためらってきたMAYさんでしたが、恋人と向き合おうという思いを強くします。
MAYさん「フェミニストとして完璧じゃないから。啓蒙する権利ないのかなと思って」
Aさん「フェミニストにも、色んなあり方がある。ジェンダーに関心があり、性差別者でなければフェミニストという考えもある」
Bさん「そのときに思うことを発信すればいい。いろんな意見に耳を傾けつつ、共感したり響いたりしたことを取り入れて、追及していけばいい」
- 対談後のMAYさんの感想:「バッドフェミニストでいい。そう気づいた時、彼氏とジェンダーの話をしようと思った」
- 対談後の3人の感想:「あるべきフェミニスト像」に悩む方へ、ジェンダーを学んだ私たちが伝えたいこと
ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた
日常の中の素朴な疑問から性暴力被害者の自己責任論まで――「ジェンダー研究のゼミに所属している」学生たちが、そのことゆえに友人・知人から投げかけられたさまざまな「問い」に悩みつつ、それらに真っ正面から向き合った、真摯で誠実なQ&A集。