私は幼い頃から夏が苦手だ。人一倍汗っかきで、夏場に外出すればほんの数分で頭皮の毛穴全部から汗が噴き出す。おまけに髪質は水分を吸収しやすく乾きにくいので、束ねた毛先から雫が垂れる事もしばしば。化粧なんてやってもすぐ落ちるのは目に見えている。
小学校の時、パイプ椅子から立ち上がり後ろを振り返ったら座面に水玉模様の汗の跡と水たまりがあって、ぎょっとした。両隣、前後のパイプ椅子を見る。どこにもそんなものはない。誰も見ている人がいないのを確認し、ティッシュでササッと拭く。今までそんなに気にならなかったけど、私は人よりも汗っかきなんだなと自覚した瞬間だった。
半袖はダサい、という風潮に抗えなかった学生時代
半袖で思い出すのは、中学高校時代にあった「半袖はダサい」という謎の風潮だ。中学はポロシャツを肘下まで腕まくりして、高校は長袖ブラウスの袖を2、3回折って着てた。どうしてちゃんと夏用に半袖の制服があるのに皆着ないんだろう?中1の時、私は同級生や部活の先輩に聞いた。あんまり覚えていないが、返ってきた答えは「子供っぽい」「太い二の腕見られるのが嫌だ」「手首だけ出してる方が涼しげに見えるし、大人っぽい」というものだったと思う。
暑さよりも見た目を取るんだ。見た目のために暑さを我慢できるの?信じられない。でも所詮、周りの目が気になる年頃。「え、半袖?だっさ~」と言われること、言葉に出さなくてもそんな目で見られることを恐れて、汗っかきの私も長袖で何とか耐えていた。様々な種類の制汗剤、汗拭きシート。色んな商品を試した。それらのおかげで夏場の学校生活をやっていけたと言っても過言ではない。
一方で、矛盾も感じていた。中学のポロシャツは、ずっと袖を腕まくりしていたら袖口はだんだん伸びてきてだらしなくなる。でも伸びた袖口はもっとダサいから見えないように袖口を隠すように腕まくりする。半袖だったらこんな不毛なループを繰り返さず、制服も綺麗なまま長持ちするのに。高校の女子のブラウスは、透けるのを防止するために男子のカッターシャツより分厚い生地で作られていた。だから少しゴワゴワしていて、通気性は悪い。夏服を着てるのに全然涼しさを感じられなかった。あと数ミリ、数マイクロ、生地が薄かったら快適さが違っていただろうに。そもそも「半袖ダサい」という考えさえ無ければ気負いせずに堂々と半袖着れたのに。
社会に出ても、私が半袖を着ることは許されなかった
高校三年の夏を越えれば、半袖に悩むことはもう無いだろうと思っていた。ところが、現実は違った。就活でもただよう「半袖はタブー」。きちんとした格好のうちに入らないから企業の方々に対して失礼らしい。実際に目にする就活女子たちは真夏でも長袖シャツにジャケットを携えていた。自分の就活が始まる前に先輩達の就活の様子を見て「私はスーツを毎日着るような仕事には向いてない」と悟った。
実際のところ、今までに私は仕事上でスーツ、もしくは黒べストに黒のタイトスカートのいわゆる事務員スタイルを着用せざるを得ない職業に就いていた時期もある。外回りの営業でも年中長袖シャツを着用していたが、どうしても夏の暑さに耐え難くて半袖着用許可を取ろうと上司に相談したこともあった。しかし、返ってきた答えはNOだった。理由を聞くと「若い女がみだりに腕を出すのは見苦しいから失礼だ」とかなんとか腑に落ちないもので、全く理解できなかった。
ようやく着れた半袖。そのルールって本当に大事?
汗っかきの私はだらだらと汗を垂れ流し、冷静に話していても焦っているように見える。お客様に気を使わせて申し訳ないと思っていた、矢先のことだった。みだりにって…これじゃ、変な男に言い寄られる前に暑さで倒れて死ぬよ。私は歴代最高の猛暑を記録した夏に、退職願を出した(服装以外にも色々思うところがあった)。
現在の私は飲食店勤務で、今までと対照的に半袖がデフォルトの制服だ。厨房と客席を行ったり来たりして、交代で洗い物や仕込みをして…。働くのに適した服装であるのは間違いない。年々猛暑になるなか、今年はマスクをして過ごす夏。形にとらわれず、体質や体調に合わせて服装を選んでも咎められない世界が増えるといいな。