夏が嫌いだ。運動会を思い出すし、セミの鳴き声で起きてしまうし、毛を剃らなきゃいけないし、だけど、好きな夜は長くなる。その代わり涼しくなんてない。クーラーがないと眠れないほど、蒸し暑くなってしまう。

メニエール病に悩む梅雨、毛の処理に悩む夏

私が繊細過ぎるのか、家族が鈍感すぎるのか、どちらもか分からないけれど、父のいびきがうるさくて眠れない。そう思ったら時計の秒針の音、ねこの鳴き声、隣の家の車の警告音がつぎつぎに鳴って眠れない。この住宅街では昼の方が静かでよく眠れる。午後3時は、特にカーテン越しに柔らかい日差しがやってきて、昼寝にちょうど良い。私にとっては睡眠なんだけれど。

やっぱり、夏は嫌いだ。

季節の変わり目になる、夏前がいちばん嫌いかもしれない。梅雨に体調を崩しやすい。雨の日が続くことにより、憂鬱と頭痛が増してくるから。

普段からしんどいけれど、梅雨のときは、薬を飲んでも抑えられないほど症状が出てきてしまう。私はメニエール病という、持病を持っているから。これは、めまいと耳鳴り、難聴などの症状が出る病気である。原因がはっきりとわかっていないと言われている病気で、なんとか薬を飲んで対症療法でしのいでいる。

私の場合、いざ夏になってしまえば、鬱陶しいぐらいに晴れていて症状もマシになる。同時に気持ちも明るくなって、メンタルも安定する。日差しを浴びた量が少ないほど、気分が落ち込みやすいらしい。

しかし、夏本番になると、違う問題が出てくる。

脱毛しなければいけないことだ。冬は長袖だから、あまり見える機会がなくて、脱毛の頻度が少なくても大丈夫だと思っている。でも、夏は半袖になるから、そういうわけにはいかない。

できるだけノースリーブは着ないようにするけれど、毎日のように脱毛の作業をしなければならない。大学生のとき、友達とガールズトークをしていたときに驚いた。毛が薄くて、剃る必要がないひともいるということに。
羨ましくてしょうがない。どれだけ悩まされているか、熱弁しても伝わらなかった。

嫌いだけれど逃げられないのだから。今年の夏こそは!

いちど、大きくやらかしたことがある。温泉に行ったときのことである。
脱衣所で「今日の私、脇毛がある・・・・・・」と、ハッと気が付いた。

何で、途中で気が付かなかったのだろう。前の日のお風呂で「まあいっか。出かける前に剃れば」と思ったのだが、そこからは、みなさんお察しの展開だ。見事に忘れていた。明日の私に託すくせをいい加減直したい。ほかのどこで忘れたってよかった。今日まさか忘れるなんて…!タオルで隠しながら入って、ひとの少ないところで体を洗って、なんとかしのいだつもりでいた。

しかし、湯船に入ったところで、幼稚園児ぐらいの歳の女の子が私をじーーーっと見てきた。それだけでは終わらない。脇、顔、脇、顔、と二度見されてしまう。

「やめてくれ。誰にもバレずに出られると思ったのに。私、こんなに温泉で緊張したことないよ!!!」
こころの中で叫んだ。

そうしているうちに、その子のお母さんであろうひとが「見ちゃダメよ」と言ってくれて、事なきを得た。ホッと一安心したのも束の間。数秒後に、その女の子は戻ってきて、私の顔をガン見し始めたのだ。

「いつもは、ちゃんとしてるの。ちゃんとしてる。たまたま今日、忘れただけなんだから、知らないふりをしておいてよおおお!」
そんな小さな罪悪感を抱きながら、大浴場を出ようとしていた。

すると、堂々とおばちゃんが毛を剃っていたのである。

世界は思ったより、広かった。この時ほど、大阪のおばちゃんの寛容さに感謝したことはない。

嫌いだけれど、必ずやってくる夏。逃げることはできない。今年は、脱毛してしまおうかなと思っている。毎日、毎日、剃るのだって肌が荒れることもあるし、もう電車のつり革を気にしながら持つのは嫌だ。