「──女のくせに」

令和の時代にもなって、こんな言葉を聞くとは思ってもいなかった。
ましてや、その言葉が自分に浴びせられたものだと気づくのには、数秒かかった。

男性の多い業界。同僚、と呼べる親しい女性はほぼいない。部署は私以外全員男性。それでも好きなこと、やりたいことだからと飛び込んだ業界だ。覚悟はしていたつもりだった。

だが、飛び込んだ先の現実は、予想以上に厳しかった。部署の人々に同じ分量で振られる日々の業務。プラスアルファ、女性だからという理由で押し付けられるお茶くみ、経理関連、清掃業務……。女性だから、女性だから。私の仕事のプラスアルファは、女性に生まれてしまったという理由で押し付けられている。

「女性だからこそできることをしよう」その思いが仇になった

女性だから。ひんぱんに浴びせられるその言葉や視線。毎日が悔しかった。男性陣が面倒くさいと思ったことを押し付けられているだけじゃないか。

……ならば。女性にしかできないことをやってやろう。「女性だから」を「女性だからこそ」に変えてやろう。そう思って作り上げた一本の企画書。若年層の女性をターゲットにした、部署の中でも私にしか作れない企画書だと思った。企画は十二分に練り、自信もあった。

「──女のくせに、こういうことには積極的なんだね」
「あんまり出しゃばらないほうがいいよ──」

企画書を提出した私の手が震えた。

私には「女性らしい」を求められているのではなかったのか

今まで、「女であること」を盾に仕事をしてきたつもりは一切なかった。雑用や経理など、「プラスアルファ」の仕事は、私が「女である」ことを理由に彼らが押し付けてきたことじゃないか。私は「女である」というレッテルを、彼らから貼り付けられていたのではなかったのか。

ならば「女である」ことを盾ではなく武器にして、立ち向かいたいと思ったのに。その矛は見向きもされなかった。

小さいころから夢見てきたこの仕事。大きく回り道もしたが、努力を重ねてこの仕事に就いたという自信もある。だからこそ、男性・女性という垣根など関係なく、対等な一人の人間として働きたかった。一つの戦力として扱ってほしかった。ただ、女として生まれただけで、やりたかった仕事に障壁が出てしまう今の状況は、私が望んだ未来ではなかった。

私は、彼らが考える女性像がまったくわからなくなってしまった。

「女のくせに」が私を強くする。いや、してみせる。

彼らが考える女性像は、どんなものなのだろう。

ひととおりの業務にプラスして、お茶くみ、経理関連、清掃業務といったこまごまとした業務(面倒くさいことともいう)をこなしてくれる存在?

あまり主張が激しくなく、男性の言うことに歯向かうこともなく従ってくれる存在?

どれも正解で、不正解なのだ。上に挙げたような生き方をする女性だって多くいるし、それが合っている女性だっている。ただ、私は「そういう女性ではなかった」というだけで。

私は、「女のくせに」の一件から、少しだけ部署の男性たちに歯向かうことを覚えた。吹っ切れた、といえばそうかもしれない。「女のくせに」と言われたことで、彼らの考える女性像と、私がなりたい未来は永遠に交わらないと気づいたからだ。

ならば、徹底的に歯向かおう。彼らの思う女性像は、私には通用しないと彼らが気づくまで、私は歯向かってやる。女だって多種多様だ。そのことに気づいてもらわなきゃ困るんだ。もう時代は令和まで来ているんだぞ。

道のりは長いだろう。でも、遅れてきた私の小さな反抗期が、もしかしたら未来の私を救うかもしれない。

「女のくせに」そんな一言が、私の未来を強くする。