私の地元は田舎とされる部類で、美味しい空気と沢山の自然を求めた人が移住してくるような場所だった。
そんな地元が、私にはある。

でも、通学路も、塾の行き帰りも俯いて歩いていた私が覚えているのは、アスファルトの冷たい灰色。
木々の緑色は見えなくて、美味しいはずの空気はひたすらに不味かった。

「クラスの大人しい子」とみられる学校が嫌いだった

アスファルトの先にある学校が嫌いだった。
クラスメイトも、嫌いだった。
うわべだらけのクラスメイトをちょっとだけ見下しながら、心の底ではいつも友達が周りにいる彼等を羨ましく思っていた。

「何読んでいるの?」なんて話しかけられるのを期待しながら私は本を読む。
「何考えてるのかわからないよね、ホント」
そう言われて、直接聞かれても無いのにあれこれと私が作られた。
違う、私はそうじゃない、そう声を上げたところで

「クラスの大人しい子」

そんな私は何を言っても声の大きな人にかき消されて、上書きされてしまったのだった。

他のクラスメイトと先生がいる空間はどうにもきらきらしていて、綺麗だった。

自分の容姿が、家族に劣っていることを寂しく思った

家族の中で私だけが容姿を褒められる経験が乏しかった。
家族と一緒にいる時、兄妹は
「かわいい顔をしてるね」と言われても、私は何も言われなかった。
「かわいい」と言われたことが全くと言ったほど無い私は、私の容姿が家族に比べ劣っていることを薄々ながらに感じていた。

中学生のある時、私の家族を知る幼馴染みの男子生徒に、
「家族は容姿を褒められるけど、私はそういうことが無くて悲しい」と、心の内を漏らしたことがあった。

「うーん、お前の親、美形なんだろ?だったらお前だって悪くないんじゃ無い?」
幼馴染みはそう言った。

悪く無いということは良くも無いということだ。
私はその時薄々ではなくはっきりと、自分の容姿が、家族に劣っていることを知った。

私以外の家族が持っているものを自分だけ持っていないことを寂しく思いながら、顔のいい家族を、まるで芸能人のように違う世界の人間だと割り切った。違う世界の家族はひたすらに綺麗だった。

私は汚い。

私は地元が、大嫌いだった。
私を汚いと思わせるあの地元が。
私だけが汚いあの地元が。
私自身を見ないで、勝手に属性をつけて、振り回す地元が。

渋々戻った地元は意外にも、もう私を傷つけなかった

高校に入り地元を離れ、そのまま進学した私に彼氏ができた。土日も連休も長期休みも、彼氏と一緒にいることを選び、地元にはめっきり戻らなかった。

「もう何ヶ月帰ってないの?そろそろ戻っておいで」

そう言われた私は、地元に行くためのバスに乗り、ぼんやりと外を眺めていた。地元に戻るにつれ、バスの外はだんだんと木々が多くなってくる。それと同時に、私の心にもだんんともやが覆いかぶさっていった。

渋々戻った地元は意外にも、もう私を傷つけなかった。

久々の地元で、私はもう「クラスの大人しい子」で無かった。それに、地元から出て色々な家族の形がある事を知ったので、「あの家族の中で1人だけ似てないあの子」であっても、もう何も寂しくなかったのだ。

久々の地元はひたすらに優しかった。
緑の森の中を散歩しながら吸い込んだ空気はとても美味しく、気持ちが良かった。
家族と顔を合わせて食べる朝ごはんを、美味しいと思ったのは久しぶりだった。

心のどこかで、ずっと許すことが出来なかった地元を初めていいとことろだな、と思った。そこで初めて、私は地元が内包していたもの、私に与えられた属性、が嫌いだったのだな、そう気づいたのだ。

さよなら、大嫌いな地元

大好きになれるかはわからない。
いいところなのは間違い無いけど、中学生までの子供時代を過ごしたあの地元がなくなるわけでは決して無い。
でも、私はもう地元をいいところだと思い始めている。それくらいには好きなのだ。

さよなら、大嫌いな地元。
よろしくね、ちょっと好きな地元。