今一番語ることの難しい話をどうにかここに書いてみようと思う。

私には恋人がいて、これを書くことで恋人を傷つけてしまう可能性もある。それだけじゃなくて自分自身を嫌いになってしまうかもしれない。
でも、何よりも書くことを通じてこの戦いに一区切りをつけたいと思うのだ。

女性間では共有しにくい性的嗜好のはなし

多くの女性は自慰行為をする時、何を「おかず」にするのだろう。もちろん女性向けのAVも存在するし色々な方法がある。しかし男子学生がグラビア写真を回し読みしたりAVを貸し借りするように、「性的嗜好をシェアする文化」はなかなか女性間ではないように思える。

そのせいか、私自身かなり独特な形で自分の性的嗜好を形成してしまったのではないかという懸念がある。

まず、私の自慰行為の最初の「おかず」はBL(ボーイズラブ)漫画であった。
中学生の頃ある少年漫画にハマり、Twitterからその作品のBL二次創作があることを知った。それからはBL同人誌、そして商業BL漫画作品と様々なBL漫画を読み漁った。

読んだことのある人ならわかると思うが、BL漫画はエロ描写が多い傾向にある。大体の作品は、恋に落ちる二人が例え初対面であっても最初の1巻から体の関係に発展する。

そんなハイペースで関係性を進めていくためには恋人となる二人のうちどちらか、あるいは両方が物語の都合上かなり強引な性格でないといけない。

私が読んでいたBL漫画の多くは初めて行為及ぶ際、「攻め」と呼ばれる男性が「受け」と呼ばれる男性を襲い、強制的に組み敷く。ほとんどレイプに近い性行為描写が主流であった。

性に関する刷り込みとは怖いもので、そんなBL漫画の描写から、私の「好きな人から襲われたい願望」は芽生えたのである。

恋人の優しさと、襲われたい願望との葛藤

中学生の頃は「襲われる」ということ自体、される側が魅力的である証拠だと思っていたしそんな風に自分に夢中になってくれる人が理想だった。
今では、幾ら魅力的でも相手を本能的に襲ってしまう人なんて犯罪者としか言いようがないことをしっかり理解している。

だけど、好きな相手が自分の反応に痺れて酔いしれてくれる、どれだけ非常識な場でも自分がどれだけ「ダメ」と言っても執拗に攻めてくる、そんな関係の持ち方に憧れる本能は大学生の今になっても少しも変わらなかった。

そんな私が矛盾と葛藤を抱えだしたのは今の恋人と体の関係を持つようになり、性的同意という言葉を知ってからである。
性的同意とは望まないセックス、妊娠、その他性的な行為を無くすため、お互いにその性行為に同意しているかを確認し合うことである。

現在私と恋人はセックスをする際、必ず性的同意をとるようにしている。
我慢せず嫌なことは嫌だとはっきり言える関係を築くこと。それがお互いを尊重するために大切だと性的同意の考え方を知った時、2人で納得し決断した。

その時私は、恋人が性的同意の根本にあるジェンダーのこと、レイプ事件をめぐる問題、人権のことをしっかり考えられる人間であることを本当に誇らしく思った。

でも一方で、それは全部理性で考えたこと。
本能の私は性的同意を取る時、決まって歯痒さを感じてしまう。例え言葉で「ダメ」と伝えていても、相手には強引になってほしいと願ってしまう。

恋人には自分を大切にして欲しい、独断でレイプまがいの行為をする人間でいて欲しくない、と願っているのに。

セックスは相手を大切にするもの。私はあえて葛藤し続ける。

お互いを思って性的同意を取ることを決めた。
なのに、そのために興奮出来ませんというのは非常に悲しい。「襲ってくる感じでお願いします!」とお願いするのも彼や私の倫理観を台無しにしてしまうようで、出来ない。

私は自慰行為をするほとんどの時、BLやTL(ティーンズラブ)漫画作品を読んで襲われるシチュエーションを妄想する。
そんな時、性的同意ガン無視のレイプに近い描写を躊躇なく良しとする、”エロ”の作り手が数多く存在している日本の現状に嫌気がさすし、何よりまんまとその刷り込みに影響され、自慰行為をしている自分が虚しくて仕方がない。

恋人の優しさを「物足りない」と言ってしまうのはそんな私の落ち度な気がするのだ。

きっとこの私の性的嗜好にまつわる矛盾と葛藤はずっと続くのでないかと思う。

でも本能に流されず葛藤する、これがある意味正しい姿なのかもしれない。
葛藤し続けることで自分や相手を大切に出来るのであればそれがいい。

セックスは一人で出来るものではない。
性的嗜好はそれぞれにあるものだけど、一人で”エロ”を堪能するために作られた作り物と相手を含めたセックスとは違うものなのではないか。と、これを書いて私はやっと思うことが出来た。

私は恋人と、お互いを大切にし深い愛情が持てる関係でいたい。
その気持ちがある限り私は自らこの矛盾と葛藤を持ち続けることを選択する。